第376話 真人を挑発する後輩二人

「こんにちは真人おにーさん!」

「こんにちは。奇遇だね修斗」

 修斗が挨拶をしてきたので俺も挨拶を返した。それにしてもいい笑顔だ。

 後ろの二人は、少し遠慮気味に会釈をしたので、俺も二人と同じ会釈をした。笑顔で。

 この二人とは会うのは初めてだけど、俺はこの二人を知っている。

 あれは冬休み、綾奈が俺の家にお泊まりに来て二日目の夜。

 綾奈が俺の部屋に来てくれるのをそわそわしながら待っていたら、美奈が修斗と一緒に綾奈で下衆い妄想をしている奴らがいると写真を見せてくれた。この二人がそうだ。

 修斗の後ろで、二人は俺を見ながらひそひそ話をしている。

「ところでおにーさん。今日は一人ですか? 綾奈先輩は一緒では……」

「今日は一人で来たんだ。さすがに今日の目的で綾奈と一緒には来れないって」

 誕生日プレゼントを綾奈の目の前で買うのはなぁ……。

『誕生日プレゼント買ってやるから付き合え』みたいなやり取りをしない限り、一緒には来ないだろう。

「おにーさんの目的って?」

「綾奈の誕生日プレゼントを買いに来たんだよ」

「「「!?」」」

 修斗だけでなく、後ろの二人の目の色も変わった。わかりやすいなぁ。

「え!? 綾奈先輩って誕生日近いんですか!?」

 まぁ、いくら綾奈が好きだったといっても、直接の接点は今年の初詣までなかったわけだから、知らないのも当然か。

「うん。今度の土曜日だよ」

「マジでもうすぐじゃないですか!」

 修斗はマジで驚いていて、何やら焦っているようにも見える。綾奈に誕生日プレゼントを渡そうって思ってるのかな?

「あの……先輩は何を買ったんですか?」

 さっきまで修斗の後ろにいた二人のうちの一人が俺にそんな質問をしてきた。初めての会話だ。

「まぁ、別に隠すほどのものじゃないから教えるよ」

 俺は三人に、綾奈に何を買ったのかを伝えると、三人は驚いていた。驚く要素、あったかな?

「……誕生日に贈る品にしたら随分軽くないっすか? 二人はめちゃくちゃ好き合ってるって修斗から聞いたんですけど、先輩は本当に綾奈先輩が好きなんですか?」

「おまっ、やめろよ!!」

 俺が何を買ったかを伝えると、さっき質問してきたのとは別の男子が、右側の口の端をつりあげ、挑発じみた感じで言ってきた。

 なるほど、そっちの驚きか。

 まぁ、俺たちのことを知らない人からしたら、初めての誕生日プレゼントに選ぶ物にしたら、これは確かに軽いと思われるだろう。気持ち的にも、金銭的にもだ。

 彼の言いたいこともわかるが、そうポンポン重たいものを贈り続けても疲れるだけだ。

 クリスマスイブに指輪をプレゼントしてるし、それと同等のプレゼントってちょっと思いつかない。……婚姻届? いやまだ二人とも結婚出来る年齢ではないって。

 おっと、それよりもこのまま黙ってるのもダメだな。ちゃんと彼に返答をしないと。

「俺は綾奈を愛してるよ。この気持ちだけは他のやつには絶対に負けないよ」

「なら、それ相応のプレゼントをするべきじゃないっすか? 初めての誕生日プレゼントがそれって───」

「クリスマスに指輪をプレゼントしたよ」

 これ以上綾奈への想いを疑われるのも、それでマウントを取られるのも嫌になってきたので、彼の話の途中だったけど割って入った。

「えっ……」

「だから、クリスマスイブに綾奈に指輪をプレゼントした。それから───」

 そこで一度言葉を区切り、左手を三人が見やすい高さまで上げて、俺の薬指にしている大切な指輪を見せた。

「一月七日が俺の誕生日だったんだけど、その日に綾奈からもこの指輪をプレゼントしてくれたよ。内側には特別なメッセージも入っている、俺の一番大事なものだ」

「あ……」

「毎回指輪みたいなものを贈ったら、綾奈も疲れちゃうし、毎回プレゼント選びに頭を悩ませることになるからね」

「おにーさんも指輪してる! てか最近誕生日だったんですね! おめでとうございます」

「ありがとう修斗。というか、実は始業式の日も指輪してたんだけどな」

 あの時はそこまで長時間話をしたわけではないけど、気づいてなかったのか……。まぁ、男の指なんて普通見ないよな。

「いやぁ……あの時はほら、杏子先輩がいたから、そっちにばかり意識がいっちゃって……」

「……納得」

 あの場で杏子姉ぇに勝るインパクトはなかった。男の指なんて見てる場合じゃないな。

 俺は苦笑いをしたあと、修斗の両サイドにいる二人を見たけど、やはりというか、ぽかんとしている。ちょっとびっくりさせすぎたかな?

「えっと……納得してくれたかな?」

「はい。……その、すみません」

 よかった。納得してくれた。

 これでダメだったら、今度は両家の親に結婚の許しを得ている話をするしかなくなっていたから。

「信じてくれてありがとうな」

「「は、はい」」

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