第374話 綾奈のバースデーケーキを自分で……

 簡単な料理しか作れない俺が、綾奈のためにバースデーケーキを作る?

 もし俺がそれを作ったら、綾奈は間違いなく喜んでくれる。だけど……。

「翔太さん。提案は嬉しいんですけど、それだとお店の迷惑になるんじゃないですか?」

 特訓をするとしたら、まず間違いなく場所はドゥー・ボヌールの厨房だ。

 皆さん忙しく働いているのに、顔見知りとはいえそこに俺が入ったら邪魔にしかならないだろう。

『そこについては問題ないよ。平日は夕方からお客様は減るから拓斗や他のスタッフに任せても大丈夫。うちは七時に閉店なんだけど、真人君さえ良かったら、店が閉まったあとでも練習してくれて構わないよ。僕も全力でサポートする』

「いえ、でも……」

 翔太さんの提案は正直言ってありがたい。でも、俺のために忙しい翔太さんの時間を使ってしまうのが申し訳なくて、俺はその提案をのめずにいた。

『真人君。僕や店の迷惑になるのではと思ってるかもだけど、気にする必要はないよ。そもそも無理だったらこんな提案ははじめからしないし、可愛い義妹の喜ぶ顔が見たくて言っているんだ。だから真人君が迷惑に思う必要はどこにもない。綾奈ちゃんが君にケーキと指輪を渡したときみたいに、今度は真人君がケーキを作って、綾奈ちゃんを嬉し泣きさせる番だよ』

「翔太さん……」

『それに例え作れなかったとしても、その時は真人君が言ったようにケーキは僕が作るよ。綾奈ちゃんには確実にケーキを渡せるし、真人君もケーキ作りのスキルが身につく。真人君にとって不利益はないと思うけど、どうかな?』

 ……俺の義理の兄になる人は、かなりの世話焼きで強引な人だ。

 そんなことを言われたら、こっちの返事はひとつしかないじゃないか。

「……わかりました。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」

 俺は、電話越しの翔太さんに、座りながらだけどお辞儀をした。

『迷惑なんて思ってないよ。一緒に綾奈ちゃんをびっくりさせようね』

「はい。本当にありがとうございます。翔太さん!」

 このあと細かい打ち合わせをし、明日の午後六時から特訓させてもらえるようになり、来週の平日もその時間から厨房を使わせてもらえることとなった。

 素人の俺にどこまでできるかわからないけど、自分に出来る一番美味しいケーキを作って、綾奈に喜んで貰うぞ!

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