第372話 続・杏子が帰ってきた理由
「それで、えっと……なんの話してたっけ? あぁ、そっか。私が芸能活動休止した理由か」
杏子姉ぇが手でパタパタと顔をあおいで、照れて熱くなった顔の熱を下げたあと、ようやく本題に戻った。
いよいよ話してくれるんだと思い、俺たちは黙って杏子姉ぇの次の言葉を待つ。
杏子姉ぇの大ファンである綾奈は固唾を飲んでじっと杏子姉ぇを見つめている。
「私がこっちに帰ってきたのは、単純に学業に専念するためだよ。まぁ……他にも理由はなくはないんだけど、一番はそれ。最低でも高校は卒業しときたいって思ってたから、だから勉強を頑張ろうって思ったってわけ」
それが普通なのかは、俺は芸能人ではないからわからない。でも学校に通いながら芸能活動してる人が、忙しくて学業が疎かになってしまい、結果一時的に芸能活動を休止するってのを、ニュースなんかで見たことがあるっけ。
杏子姉ぇもかなりのハードスケジュールだし、両立が出来なくなってきたから学業を優先したのか。
「キョーちゃんがこっちに戻ってきてくれたのは嬉しいけど、でもなんで東京の学校からこっちに転入してきたの?」
「……私もそれは気になってました。杏子さん、よかったらそれも教えてくれませんか?」
「アヤちゃんの頼みなら聞かないわけにはいかないね。いいよ、話すよ」
「ひゃう! あ、ありがとうございます……」
綾奈の頼みを快諾して、さらにはウインクまでした杏子姉ぇ。
そんな杏子姉ぇを見た綾奈は、照れすぎてめっちゃドキドキしているのか、顔を赤くして俯いてしまった。
気のせいかな? 俺がいつも見ている綾奈よりもドキドキしている風に見えるのは……。やはり芸能人には勝てないのか?
「なんか悔しがってるマサは置いといて……東京の学校にそのままいても良かったんだけど、どうせなら芸能とは全く関係ない場所で頑張ろうって思って、それで帰ってきたんだよ」
え? 俺って悔しがってる顔してた?
そこを気にして杏子姉ぇの話を半分くらい聞いてなかった。
「私は何があっても真人が一番だからね」
そんな悔しがっている(らしい)俺を見て、対面に座っている綾奈が両手を伸ばして、テーブルの上で組んでいた俺の手を優しく包み込んで微笑んでくれた。
「あ、ありがとう……綾奈」
「えへへ♡」
綾奈の笑顔を見て、俺も自然と笑っていた。俺のお嫁さんの笑顔は本当に最高でしかない。
「イチャイチャ夫婦は置いといて、私を口説いてくる男たちからも離れたかったから、地元に帰ってきたってわけ」
なるほどな。杏子姉ぇって本当に可愛いもんな。いとこだから贔屓してるとかではなく、むしろいとこの俺から見ても即答で可愛いと言えるレベルだ。
その可愛さと明るい性格で、杏子姉ぇが東京でも……芸能界でもモテるのは想像に
きっと、ドラマやバラエティーで共演した歳が近い俳優さんなんかに口説かれたりしたんだな。
「はい。私の話はおしまい! あと一年ちょっとの高校生活を悔いなく楽しみたいから、こうやって帰ってきたんだよ。だからみんな……私といっぱい遊んでね?」
杏子姉ぇはまたウインクを、今度はみんなに向けて放った。
みんなも杏子姉ぇに頷いたり、「もちろん」って言ったりしている。
……そうだな。せっかくこっちに帰ってきてくれたんだ。戻ってきたことを後悔させないために、俺たちでめいっぱい楽しい思い出を作ってあげよう。
いつか杏子姉ぇが芸能界に復帰して辛いことがあったとき、ここでの思い出で笑顔になってくれるくらいに……。
そろそろ空が茜色に染ってきたので、杏子姉ぇの話が終わったタイミングで俺たちは店をあとにした。
帰り際、拓斗さんを呼んだら、拓斗さんは何故か色紙を持ってやってきた。
千佳さんあたりに杏子姉ぇのことを聞いて、今日の出勤の時に色紙を持参したんだろう。ファンっていうのはマジだったみたいだ。
俺がサインを頼むと、杏子姉ぇは快諾して拓斗さんの色紙にサインをし、それを見た拓斗さんは感激のあまり目が潤んでいた。
拓斗さん……ガチで杏子姉ぇのファンじゃん。
それから俺は、綾奈を家まで送るためにみんなと別れ、綾奈と手を繋いで、西蓮寺家へ直行…………するわけはなく、いつもの人がいない公園へと移動し、空が真っ暗になる直前まで綾奈とイチャイチャした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます