第367話 最近オープンした猫カフェ
「ねーねー綾奈ちゃん。ここから三駅離れたところに、最近猫カフェが出来たの知ってる?」
俺たちの『あ~ん』がみんなのあいだでほぼほぼスルーされてから少しして、茜が綾奈にそんなことを聞いた。
それは、俺たちの学校方面とは逆方向に三駅離れた場所……ショッピングモールの最寄り駅のもう一つ先の駅からほど近い場所に、今年に入ってからオープンした猫カフェだ。
確か店の名前は『ライチ』だったかな?
広々とした空間に、十匹を超える猫がいて、どの子も人懐っこい性格の猫が揃っていて、とても癒されると、そこを利用した人のSNSに書かれていた。
どうして俺がここまで知っているのかというと、この辺りに猫カフェってなかったし、この一週間、学校でよくその話をする女子がいたからだ。
俺の婚約者が時折猫みたいに、俺の胸に頬を擦り付けてくるから、記憶に残っていたわけだ。綾奈、猫好きだし。
「もちろん知ってるよ茜さん。ホームページも見たけど、どの子もすっごくかわいいよね!」
そして、そんな綾奈は当然のように猫カフェの存在を知っていた。どうやら綾奈もそこのホームページを見て、どんな猫がいるのかも把握しているみたいだ。さすが猫好き。
「さすがだね綾奈ちゃん。ちなみに綾奈ちゃんはどの子が好みなの?」
茜の『好み』というワードに内心ドキッとする俺。普通に猫の好みを聞いているとわかっているけど、どうしても反応してしまう。
俺は顔に出さないように、瞑目しながらカプチーノを飲む。
俺ってつくづく綾奈が大好きだなぁ。当たり前だけど。
「うぅ~、どの子もすごくかわいかったから悩むよぉ……う~ん……きららちゃん、かなぁ?」
ほほぅ……綾奈はきららちゃんがお気に入りか。
きららちゃんというのは、その猫カフェで働く、アメリカンショートヘアの名前だ。
グレーと黒の毛並で、必ず一度は挨拶がてらお客さんのそばにやってくるらしい。そして気に入った人間には頬ずりや、膝の上に乗ったりしてくる、その店の一番人気で看板猫だ。
俺もその子が一番かなって思ってたし、綾奈と好みがかぶって嬉しい。
「一番人気の子だね」
「うん。でもどの子も本当にかわいくって……」
「あはは、わかるよ。どの子もめっちゃ可愛かったよね! スコティッシュフォールドのラック君とか、三毛猫のナツミちゃんとかね」
「そうなの! どの子も魅力的で……一度は会ってみたいなって……」
「でもあそこって、出来たばかりで連日いっぱいなんでしょ? さすがにしばらくは行けないかもね」
「うん……だから落ち着くまでは我慢するつもりだよ」
二人の言うように、この猫カフェ平日、休日関係なしに、ほとんどの時間帯、お客さんが入っているらしい。もちろん、あまり大勢入ると猫が驚いてしまうので、一度に入れるグループも少なく、それもあってかなかなか予約が取れないと、これもクラスの女子が言っていた。
でも今は予約者の公平を期すために、その予約は先着順ではなく抽選にしているとホームページに書いてあったな。
「あーその猫カフェな。すごい人気らしいな」
二人の会話に一哉が入ってきた。
「そうなんだよね~。カズくん、いつか二人で行こうよ!」
「そうだな。そういう場所には行ったことがなかったし、俺も興味あるしな」
「決まり! 約束ね」
「おう」
一哉と茜は猫カフェに行こうという約束をし、指きりをしていた。
そして指きりが終わると、茜は一哉にピトッと寄り添ってすごくご満悦な表情をしている。
「あかねっち、かずっちがめっちゃ好きだね」
「そりゃあ、大好きな彼氏だもん」
俺たちのグループの元祖イチャラブカップルがその仲の良さを見せてくる。
そういや、一哉と茜が付き合い出したのって、俺たちの受験が終わってすぐだから、来月にはもう一年なんだよな。
「ま、真人……」
そんなことを考えていると、正面の綾奈が少し遠慮気味に俺を呼んだ。
綾奈を見ると、上目遣いで俺を見ていたので、俺はその可愛さにドキドキしていた。
「どうしたの綾奈?」
「あ、あのね……私も、真人と一緒に、猫カフェ……行きたいなって」
少し言いにくいことでも言うのかなって思ったけど、めっちゃ可愛いお願いだった。てか、そんなに遠慮気味に言わなくても、綾奈とだったらどこへでもついていくよ。
「もちろんいいよ。一緒に行こうね」
「っ! うん! えへへ♡」
俺が約束をすると、綾奈の表情はぱあっと明るくなり、満面の笑みを見せ、それがふにゃっとした笑みに変わった。笑顔の三段活用だな。
俺も、愛するお嫁さんのそんな笑顔を見て、自然と口が弧を描いていた。
「じゃあ、私たちも指きり!」
「うん」
そうして俺は、綾奈と指きりをした。
「そうだ。綾奈の誕生日の日の予約抽選に応募しとくね」
「え!?」
俺はスマホを取り出し、猫カフェのホームページを開く。
すると、綾奈の誕生日の一月二十一日の抽選に応募出来る締切は今日になっていたので、早速必要事項を入力して予約を完了した。
「ほい、予約完了っと」
「真人……嬉しい。ありがとう」
「まだ行けると決まったわけじゃないから、その言葉は当選してからまた言ってほしいな」
「わかったよ! どうか当たりますように」
綾奈は両手を組み、祈るようなポーズをとった。
これでもし本当に当選したら、忘れられない思い出になる。
俺も、当たるように祈っておこう。
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