第365話 杏子と茉子のひそひそ話 ~マサが好きなの?~

「ねえねえマーちゃん」

 歓迎会が始まって三十分くらい経過した頃、杏子姉ぇが隣に座っている茉子を呼んだ。

 ……茉子で合ってるよな? この中で名前に『ま』が付くのは俺と茉子しかいないし。

「な、なんですか杏子先輩!?」

 杏子姉ぇに呼ばれた茉子はというと、ビクッと肩が跳ねて、少し慌てた感じの様子だ。いきなり芸能人にあだ名で呼ばれたらそうなるわな。ファンであるかどうかは関係なく。

 杏子姉ぇはいきなり茉子へと自分の顔を近づけて、茉子の耳元へも持っていった。

 また茉子の肩がビクッと跳ねたよ……。

「マーちゃんって、マサが好きなの?」

「えぇ!?」

「っ!」

 耳打ちしているのに、杏子姉ぇの声がよく通るせいか、その耳打ちはかろうじて俺の耳にも届いていた。

 聞こえてしまったことにより、ドキッとして俺の肩も跳ねたんだけど……ここで聞かなくてもよくない!?

「どうしたの真人?」

 どうやら綾奈には聞こえてないらしく、俺が突然肩を跳ねたことを不思議に思ったようで、小首を傾げている。可愛い。

「な、なんでもないよ」

 俺はなんでもない風を装って綾奈に返事をした。

「マサを好きなとっても可愛い中二の女の子がいるってひーちゃん先輩が言ってたから、マーちゃんかなって」

 あ、耳打ちの会話、続けるんですね。平常心を意識しなければ。

 俺は心を落ち着けながら、ショートケーキにフォークを入れる。

「ひ、雛さん……。そ、そうですね。真人お兄ちゃんのこと……好きですよ」

 茉子さん……白状しました。これは誤魔化せないとでも思ったのかな?

 しかし、茉子の『好き』はどっちなんだろう? 異性としてか、兄としてか……。

「それはお兄ちゃんとしての好き? それとも一人の男として好きなの?」

 杏子姉ぇは俺の心が読めるのだろうか……? 俺が思っていたことをピンポイントで茉子に聞いてるし。

 俺は瞑目しながら、一口サイズに切ったショートケーキを口に運んだ。

「えっと……ち、ちょっとだけですけど、まだ異性として好きな気持ちもあるんです。その……初詣でちょっとあって……でもほとんどお兄ちゃんとして好きって気持ちですよ」

「…………」

 初詣でって……やっぱり修斗との一件の後……だよな。

 あの時、茉子の頭を撫でていると、茉子がマジで泣いていたから、アイコンタクトで綾奈に了承を得てから茉子を抱きしめたんだが……やっぱりそれが原因だったのかな?

 いや、修斗に俺への気持ちを叫んでたし、それかもしれんぞ!?

「真人。どうしてそんなに目を瞑って食べてるの?」

 綾奈が瞑目しながら食べる俺を不思議に思い、再び声をかけてきた。いつもここのケーキを食べる時は笑顔だから、そりゃあ不思議に思うよな。

「えっと……やっぱり翔太さんの作るケーキってマジで美味しいなって……そう思って食べてたから」

「そうなんだね。お義兄さんの作るケーキ、本当に美味しいから、真人の気持ちわかるなぁ」

 そう言って綾奈は、フォークで小さく切ったチョコレートケーキを口に運び、その美味しさに満面の笑みを見せた。愛するお嫁さんの笑顔……最高だなぁ。

「まったく……マサってば罪作りな男だよね。三人の美少女の心を弄んでおいて、自分はお嫁さんのアヤちゃんとイチャイチャしてるんだから」

「んっ!?……ゴホッゴホッ!」

 おい姉! 過去一人聞きの悪いことを言ってるぞ! 誰も弄んでないわ! 自分のいとこをチャラ男みたいに言わないでください。

「だ、大丈夫真人!?」

「だ、大丈夫……ダイジョーブ……あはは」

 これ、杏子姉ぇと茉子の耳打ちが終わるまで誤魔化しきれるのかな? 激しく不安だ。

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