第363話 健太郎と千佳もイチャつく

「え? ちょ……あ、あたしのことはいいんだよ! 今は真人の婚約者に注目するべきでしょ!?」

 千佳さんが顔を赤くし、慌てた感じて言っているんだけど、一度集まった注目は簡単には薄れない。

「中筋お前、もしかしてこのギャルにも好かれてるのか!?」

「はぁ!?」

 クラスメイトの男子がとんでもないことを言ってきた。いやいや、ありえないだろ。

「そうなのか中筋!?」

「ギャルの人もさっき中筋を名前で呼んでたもんな!?」

「お前どれだけの美少女でハーレムを形成してんだ!?」

 こいつ、何人聞きの悪いことを言ってんだ!? ハーレムなんて……作ってないぞ!?

 綾奈を除いて二人ほど告白を受けたし、俺に好意を寄せてくれていた妹みたいな存在もいるけど、決して俺はハーレムを作ってはいない! 綾奈一筋だ。

「…………ハーレム?」

「綾奈さん……あなたわかってて言ってますよね?」

 それにしては目が笑ってないんだけど……。

「あははは! マサも大変だね」

「うるさいよ杏子姉ぇ!」

 その大変の原因の一つは杏子姉ぇなんだからな!? けらけらと笑ってんじゃないよ!

「はぁ……この人は宮原千佳さん。俺の婚約者……西蓮寺綾奈の親友なんだよ」

 これ以上収集がつかなくなると、昨日みたいにカオスになりそうだったので、俺はクラスメイトのみんなに千佳さんを紹介した。

 俺が千佳さんをみんなに紹介すると、健太郎がゆっくりと千佳さんに近づいていった。そんな自分に近づいてくる健太郎を見ながら、千佳さんの頬は少し朱に染っていた。千佳さんって、マジで健太郎のこと好きすぎるだろ。……付き合って二ヶ月で綾奈に指輪を贈った奴が何言ってんだって感じなんだが。特大のブーメランが俺に返ってきた。

 健太郎は千佳さんの横に並ぶと、俺たちの方に向き、千佳さんの手を握りながら言った。

「千佳は僕の彼女なんだよ」

「「えぇぇぇぇえええええ!?」」

 健太郎のカミングアウトに、クラスメイトは驚きの声を上げた。

 健太郎は間違いなく俺たちのクラスで一番のイケメンだ。はたから見たらこれほどお似合いのカップルはそうそういないだろう。

 だが、健太郎は俺以上のオタクであるため、健太郎がオタクであることを知っているみんなは、健太郎がギャルと付き合っているという事実に驚愕してるというわけだ。

 健太郎も自分がオタクというのは言いふらしたりはしてないけど、俺と友達になる前は自分の席でラノベを読んでいたし、俺と友達になってからはラノベやアニメの話を教室でしていたから、クラスで健太郎がオタクというのを知っている人数は多い。

「ま、マジか……清水がギャルと……」

「オタクとギャルって水と油みたいなイメージだったけど違うんだな」

「オタクに優しいギャルって絶滅危惧種だろ!?」

「でもお似合いだよね~」

「本当にね! ここまでお似合いだと嫉妬しないよね」

 男子と女子で感想が違うな。

 男子の方は、オタクの健太郎でも千佳さんみたいな美人のギャルと付き合えるんだから、俺たちもワンチャン……みたいな思惑が透けて見える。

「あたしは健太郎が……清水健太郎という男が好きなだけだから。オタクとかギャルとかは関係ないよ」

 千佳さんが言ったように、ギャルだとかオタクだとかは関係ない。健太郎も宮原千佳という一人の女の子に一目惚れをして、告白したんだから。

「ありがとう千佳。僕も同じ気持ちだよ」

「うん……」

 千佳さんは照れて俯いてしまった。耳まで真っ赤だ。

「ちぃちゃん……かわいい」

 いつの間にか俺の背中に隠れるのをやめ、俺の横に立って手を握っていた綾奈が言った。

 普段は言いたいことをズバズバ言ったり、並の男子より腕っぷしが強い千佳さんだけど、健太郎の前では恋する乙女の表情をする。このギャップがマジで可愛いんだよな。

 これを口にすると、多分綾奈は「むぅ……」って言って頬を膨らませてしまうから言わないけど。

「も~千佳ちゃんも人前でイチャイチャしてるじゃん。これは綾奈ちゃんたちのこと言えないよね~」

 クラスメイトのみんなや杏子姉ぇが、千佳さんのギャップに驚いて言葉を紡げないでいる中、沈黙を破ったのは江口さんだった。声は弾んでいて、ちょっとニヤニヤしている。

「な、何言ってんのさ乃愛!! あたしは別に───」

「耳まで真っ赤にしてたら説得力ないって千佳ちゃん」

「きっと彼氏さんともっとイチャイチャしたいと思ってるはず」

 楠さんが江口さんの援軍として加わった。二対一だけど、千佳さんはどう出る!?

「~~~~~~!」

 千佳さんはさらに顔を赤くして、声にならない声を出していた。

 二人に本音を言い当てられてしまっては、さすがの千佳さんも形無かたなしだ。

 そんな千佳さんと健太郎の仲睦まじい様子をしばらく見ていたクラスメイトは、満足したのか、はたまた胸焼けを起こしてしまったのか……それぞれ帰路に着いていった。

 江口さんと楠さんも、憧れの杏子姉ぇと話せてすごく満足そうだった。

 この日も疲れたけど、放課後は婚約者や友達と、楽しい時間を過ごせてよかった。

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