第357話 真人も既に有名人?

「「「…………」」」

 あれ? みんなぽかんとしてまた固まっている。もう奴は去っていったんだからフリーズは解けてもいいはずなんだけど……。

「えっと……みんな、どうかしたの?」

「……いや、お前があんな風にキレたの、初めて見たなと思ってな」

 何故かスマホを横に持ってフリーズしていた一哉は、スマホを縦に持ち直し、操作しながら言った。

「そりゃ怒るだろ。人の彼女であんなこと言われたら。一哉と健太郎だって怒るだろ?」

 正直、茜や千佳さんがさっきの奴のターゲットになったとしてもいい気分はしないし、怒っていたと思う。

 千佳さんの場合は、仮に千佳さんがここにいたら俺や健太郎が怒る前に千佳さんが奴をボコるだろうけど。

「確かにそうなんだけど、真人が普段使わないような言葉を言ってたから驚いちゃって……」

「普段使わないような言葉?」

「『俺の女』」

 俺が首を傾げていると、香織さんが言った。

「あーうん。まぁ……」

 確かに言ったし、無意識とかではなく記憶もバッチリ残っている。

「カッとなってつい出てしまったって感じなんだ。驚かせて悪かったな。みんなもごめん」

 俺は三人だけでなく、この場にいたクラスメイト全員に謝罪をした。一哉はまだスマホをいじっていた。

 いくら婚約者が間接的にバグされそうになったとしても、こんな大勢いる教室でキレてしまったのは失敗だったな。

 クラスメイトから『突然キレるヤバい奴』みたいに見られたらどうしよう……なんて不安が少しだけど頭をよぎった。

「気にすんな中筋。アレはアイツが悪いって」

「自分の彼女があんなのにハグされそうになるとか絶対嫌だろ」

「わたしなんてちょっと引いちゃったもん」

「ちょっとなんだ。あたしはドン引きだったけど」

 だけど、クラスメイトの反応は優しいものばかりだった。

 理解あるヤツらばかりでほっとしたよ。

「しかし、お前もこの学校じゃかなり有名になったんじゃないか?」

「杏子姉ぇのいとこだから……だよな」

 人気女優のいとこってだけでも話題性が十分なのに、昨日はこの教室でハグまでされたんだ。二年生や三年生の先輩方にもたくさん見られてしまったし、変に目立っちゃったな。

「まぁそれが一番だが、その他にも高校一年で将来のお嫁さんがいるってのもかなり強いと思うぞ」

「あー……」

 これも昨日の件で、たくさんの生徒に認識されてしまった。

 でも認識されただけで、そこまで騒ぎ立てられるネタではない気がする。

 周りから見たら、『彼女』という存在とそこまで変わりはない……みたいな感じだと思うし。

 下手に綾奈が注目されて、俺のいない間に他の男からちょっかいかけられたりしそうだから、男子には綾奈の写真を見せないようにしないとな。

「それからお前は、この学校一の美少女に惚れられたってのもデカい要因だろうな」

「風見高校の学校一の美少女?」

 思わず聞き返してしまったけど、そんなの一人しかいないじゃんと言ったあとで気づいた。

「そんなん雛先輩に決まってんだろ」

「だよな……」

 あの美貌に抜群のプロポーション、そして優しいおっとりお姉さん……そりゃあ学校一の美少女と呼ばれるよな。

 昨日は明言こそしなかったけど、あれはどう見ても雛先輩が俺を好きだってみんなにバレてるよな。

「おっと。今日も着信が……って、綾奈だ」

 昼休み残り十分のタイミングで、綾奈から着信が入った。

 どうしたんだろう? また声が聞きたくなったとかかな?

 そうだったら嬉しいし、俺も綾奈の声を聞きたいから早く出るか。

 俺は少しだけはやる気持ちを抑えながら、通話ボタンをタップした。

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