第355話 杏子とお近付きになりたい男子達は
「な、なぁ中筋……俺たちって友達だよな?」
「…………」
始業式翌日の水曜日の昼休み。
弁当を食べた俺は、一哉達仲のいいクラスメイトの三人とだべっていたのだが、横からほとんど話したことのないクラスメイトにいきなりそんなことを言われて無言で辟易していた。
なぜ辟易しているのかというと……こうやって話しかけてくる男子は、これが初めてではないからだ。
今日俺が学校に来てから休み時間の度に、この学校の男子生徒が俺に話しかけてくる。クラスメイトや同学年の生徒だけでなく、上級生の先輩もだ。
なぜこんなにも話しかけられるのか……その理由は一つしかない。
「……言っておくけど、そんな上っ面だけの友達関係なんて、杏子姉ぇは一発で見破るからな?」
朝から話しかけてくる男子は、みんな杏子姉ぇとお近付きになりたいがために、俺と関わりを持とうとする奴ばかりだ。
杏子姉ぇは人気女優だ。そんな有名人と仲良くなりたいと思うのは人として当然の欲求だと思う。
だけどそれがただ純粋に杏子姉ぇと仲良くなりたいだけなのか、はたまたよからぬ事を企んでたりするのかは、パッと見ではわからない。
いや……予想外にたくさんの人が話しかけてくるものだから、その選別もめんどくさくなってやめたというのが正しいか。
昨日めちゃくちゃ振り回された杏子姉ぇだけど、それでも俺の大切ないとこでお姉ちゃんだ。
怪しいやつは絶対に近づけさせない。
「い、いや……俺は純粋にお前と友達になりたくて───」
「いや無理があるから。俺と友達になりたいんだったら、なんで入学してすぐに話しかけてこなかったんだよ? そんなセリフ、三学期に言ってきても全然信用出来ないから」
「うぅ……」
俺が正論を叩きつけると、そのクラスメイトは項垂れて自分の席に戻って行った。
「真人、大丈夫?」
「……大丈夫じゃない」
「昨日の今日でお前も大変だな。今ので何人目だ?」
「数えるのもめんどくさくなってやめた」
「八人目だよ」
「なんで数えてんだよ香織さん……」
友達がこうやって声をかけてくれるのはありがたいんだけど……香織さん。出来れば人数を教えてほしくなかった。
確かに一回の休み時間で二人来たのもあったけど……これがあと何回続くんだ……?
「しかし、杏子先輩の人気ってマジで凄いな」
「ねー。杏子先輩とお話してみたいって気持ちはわかるけどね」
「……話だけですんだからいいけどな」
「中には先輩に手を出そうと考えてる人もいるだろうね」
中にはというか、ほぼ全ての人だろうな。
「でもなんで男ばっかりなんだろうな? 杏子先輩のファンって女の人もいっぱいいるんだろ?」
確かに。綾奈が杏子姉ぇの大ファンだし、同性のファンもいっぱいいるはずなのに、なんで俺に話しかけてくるのは男ばかりなんだ?
「多分女子は直接杏子先輩のところに行っちゃうからじゃない? 真人君に話しかけてくるのは、杏子先輩と仲良くしたいけど自分からは杏子先輩に話にいけないから、真人君と仲良くなって、まずは間接的な繋がりを作ろうとしてくる人たちばっかりだし」
「言いたくはないけど、無駄な努力なんだよなぁ……」
杏子姉ぇって、そういう感情には敏感だって茜が言っていたし、芸能界にいたから、そういったスキルが自然と身についたのかもしれないな。
そんなことを考えていると、教室のドアが勢いよく開いた。
「中筋! お前をハグさせてくれ!」
「は?」
昼休みも残り半分くらいになった頃、今日一強烈なインパクトを放ったガタイの良い奴が現れた。
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