第351話 家の前で美奈と一緒にいたのは……

 俺は綾奈と杏子姉ぇと三人で、俺の家の近くまでやって来たんだが、みんなと別れたあともまあ大変だった。

 駅構内に入ったら、杏子姉ぇを見つけた若いファンの人達が握手を求めてきたり、電車内でも俺たちを見てくる中高生の視線がとにかく凄かった。もちろん電車内でも声をかけられていて、ちょっとしたパニックになっていた。

 ちゃんと目的の駅で降りれたのが奇跡だった。

 改めて、杏子姉ぇの人気の高さがうかがえるな。

 近年の人気も凄まじいって聞いたし、俺と綾奈がイブに見た映画、『最低から始まる最高の恋』(通称、最恋さいこい)のヒロインも演じていたしな。

 それにしても、そんな人気絶頂の杏子姉ぇが、なんで無期限の活動休止を選択したんだろう?

 まぁ、これは本人の口から聞くしかないし、いずれ話してくれるだろ。

 ちなみに今は、綾奈と杏子姉ぇが手を繋いで歩いていて、俺が二人のすぐ後ろを歩いている。昨日同じような光景を見たな。昨日は美奈と手を繋いでいた。

「わぁー! 変わらないね。懐かしー!」

 俺の家が見えてきて、杏子姉ぇがそんな感想を言った。十年かそこらで変わったりしないって。

「あれ? ねぇマサ。家の前でみっちゃんが男の子となんか話してるよ」

「え!?」

 杏子姉ぇは家から視線を離すと、家の傍に立っている美奈を見つけた。

 俺も驚いてそっちを見ると、確かに美奈が男子と話をしていたけど、仲良さそうというよりも少し口論っぽくなってる?

「ねぇ真人。あの男子って、もしかして横水よこずい君じゃないかな?」

「本当だ」

 確かにあれは横水君だけど、なんで彼が家の前で美奈と言い合ってるんだ?

「あ、お兄ちゃん、お義姉ちゃんおかえり……って、杏子お姉ちゃん!?」

「ただいまみっちゃん。久しぶりだね~」

「な、なんで女優の氷見杏子がここに!?」

 うん。わかってたけど二人とも思った通りのリアクションだな。

「杏子姉ぇと俺たちはいとこなんだよ」

「ま、マジですか……あ、おかえりなさい。綾奈先輩も」

「……は?」

 気のせいかな? 今、横水君が俺を『おにーさん』って呼んだ?

「なになに~? もしかしてこのイケメン君って、みっちゃんの彼氏!?」

「やめてよ杏子お姉ちゃん! 誰がこんな奴と!」

「そ、そうですよ! ありえないです!」

 ん~、最近まで俺と綾奈のことでいがみ合っていた二人だが、雨降って地固まる的な感じで和解して仲良くなったと思ったけど違うみたいだ。

「ところで、茉子はいないんだな」

 こういった場には茉子も居合わせているってイメージが普通にあったから、ここにいないのがちょっと不思議に思ってしまった。

「お兄ちゃん、マコちゃんに会いたかったの~?」

「言い方! あのな───」

 俺はさっき思ったことを話した。

「今日は特に遊ぶ約束もしてなかったから、マコちゃんはまっすぐ帰ったよ」

「そっか」

「あとでマコちゃんに『お兄ちゃんが会いたがってたよ』って言っとくね?」

「おい誤解を招くような言い方するなよ」

 俺はおそるおそる綾奈を見る。

 綾奈は俺に優しい微笑みを見せてくれた。その表情からして、ヤキモチは妬いていないみたいだ。

「お義姉ちゃんが『むぅ』ってしない……」

「真人は私だけを愛してくれてるってわかってるから。それにマコちゃんには嫉妬しないってあの時言ったしね」

「つ、強い……無双じゃん」

 あの時……初詣で、神社の裏の木がうっそうと生えている場所で横水君と言い合いになった時のことを言ってるんだろうな。

 綾奈の確かな信頼がとても嬉しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る