第348話 真人のお嫁さん当て

「ねぇねぇあかねっち! 噂のマサのお嫁さんって、もしかしてかおちゃん!?」

「ちょっ!!」

「えぇ!?」

 さっきの茜のセリフをちゃんと覚えていたのかよ!? みんなの混乱に乗じて忘れてくれたら良かったのに……。

「だって、かおちゃんって可愛いし、マサを名前で呼んでたもん。ただの友達なら名前呼びしないかな~って思ったけど、違う?」

 微妙に鋭い推理だけど違うな。っておい、そこのクラスメイトの男子数人、俺を睨むな!

「違うよキョーちゃん。真人のお嫁さんは───」

「健ちゃ~ん、真人く~ん」

「あ、姉さん」

 茜が俺のお嫁さんが誰なのかを杏子姉ぇに言おうとした直前、雛先輩が俺たちのクラスにやって来た。

「なんかおっとり巨乳美人が来た!」

「おいやめろこの姉!」

 知らないとはいえ、先輩になんてこと言ってんだよ!?

「あら~? もしかして、氷見杏子さんかしら~?」

 あ、やっぱり雛先輩も杏子姉ぇを知ってるんだ。

「そうです。本名は中筋杏子で、マサのいとこです」

 杏子姉ぇが敬語になった。先輩って認識したみたいだな。

「真人君のいとこなのね~? 私は三年生の清水雛です~。健ちゃんのお姉ちゃんですよ~」

「ケンくんのお姉さん!? うわ~美形姉弟だ。よろしくですひーちゃん先輩」

 先輩にもあだ名をつけるのかよ!?

「可愛いあだ名ありがとう杏子ちゃん」

 そして雛先輩もまんざらじゃない……というか喜んでる!!

 これが人気女優の力か……!

「あ! わかったよあかねっち!!」

 杏子姉ぇがまた閃いたようだ。頭上に豆電球が見える。……いい予感は全くしないけど。

「なになにキョーちゃん?」

 いや止めろよ幼なじみ! 杏子姉ぇが何言うか絶対にわかってる顔だよそれ!

「杏子姉ぇ! それもちが───」

「ひーちゃん先輩がマサのお嫁さんだ!」

 茜が面白がって杏子姉ぇを止める気ゼロだったから、俺が止めようと思ったんだけど、一足遅かった。

「ってキョーちゃんは言ってますが、雛先輩。正解は?」

「いやなんでクイズになってんだよ!?」

 普通に正解言えよ幼なじみ!

「ん~」

 いや雛先輩も無駄に溜めを作らないで! クラスメイトも廊下の人たちも、何故か黙って雛先輩の答えを待ってるし。

「そうだったら良かったんだけど、違うわ~」

「「なにーーー!?」」

「普通に「違う」って言ってください雛先輩!!」

 ギャラリーがまた驚きの声を上げ、俺を睨む男子の目が増えた。

 中には俺に対して唸り声を出すやつまでいるし。

「モテモテだねマサ~」

「雛先輩ってやっぱり真人が……」

「もぅ……姉さんは……」

「あははははは!」

 杏子姉ぇはニヤニヤしながら肘で俺の脇腹を軽く小突いてくるし、一哉は雛先輩が俺に惚れてることに対してびっくりしてるし、健太郎はそんなお姉さんに対して嘆息してるし、茜は爆笑してるしで……なんだこの状況?

「こんな美少女二人をはべらせてるのに、さらにお嫁さんがいるとか……あかねっち、私の弟、どうなってんの!?」

「おい姉! 人聞きの悪いことを言うな!」

 誰も侍らせとらんわ!

 てか、ここに茉子がいなくて良かった。いたら更なるカオスになることは避けられなかっただろうな。

「二人じゃないわよ~。あと一人いるんだから~」

「えっ、マジ!?」

「雛先輩!」

 って思ってたら、雛先輩がサラッと爆弾発言してしまった。

「ひーちゃん先輩。その子も美少女?」

「そうよ~。と~っても可愛い中学二年生の女の子よ~」

「「中筋てめえぇぇぇ!!」」

 ついに我慢の限界に達した何人かが俺に対して大声を上げてきた。もう……めまいがしてきた。

「同級生に年上に年下……。見事に属性がわかれてるね~すごいじゃんマサ」

「……そりゃどうも」

 反論する元気もなくなってしまったので、俺は力なく返した。

 その時、制服のズボンのポケットに入れてあったスマホが震えた。誰かからの着信みたいだ。

 俺は誰がかけてきたのかを確認する。

「……綾奈だ」

 やはりというか、綾奈だった。きっと風見高校に到着したんだろう。

 俺は通話ボタンをタップした。

「……もしもし?」

『あ、真人? 綾奈だよ! ……って、元気ないけど、どうしたの?』

「い、いや。なんでもないよ」

 やばい。精神的に疲れているからそれが声にででしまった。普通にしないとな。

『……そう? あのね、風見高校に着いたよ』

「わかった。すぐに行くから待ってて」

『は~い♡』

 綾奈との通話はすぐに終了した。

 早くこのカオスな空間から脱出し、綾奈に会って癒されたい。

 ……が、そうは問屋が卸してくれない。

「ねぇねぇあかねっち。さっきの電話ってもしかして……」

「うん。真人のお嫁さんの綾奈ちゃんだね」

「やっぱり! 少しだけ声が聞こえたけどめっちゃ可愛い声してたね! それに、マサに早く会いたいって気持ちが声から溢れてたし」

 綾奈お嫁さんの存在に、杏子姉ぇが食いつかないはずがなかった。

「え? 杏子姉ぇ……もしかしてついてくる気?」

「あったりまえじゃん! マサの婚約者なら、私ともいとこになるって子だよ? 会って挨拶しないと♪」

『面白そう』って顔に書いてあるんだよなぁ。

「よし。それじゃあ行くよマサ」

「……はいはい」

 俺が何を言っても無駄とわかってるので、もう諦めて、杏子姉ぇに手を引っ張られながら俺は教室を出て、一哉達もあとに続いた。

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