第346話 転校生の正体は……

「話を戻すけど、転校生……案外芸能人だったりしてな」

「いやいや、それこそないだろ」

「それだと納得だけど、こんな田舎に芸能人が転校してくるとかないでしょ~」

「でも、もし一哉の言ったことが当たってたらびっくりだよね」

「まぁ、ないだろうが……ん?」

 なんか、複数人の声が少しずつこっちに近づいてくる。どうやら二年生の集団みたいだな。

「噂をしてたら、だな」

「うん。こっちに来てるみたいだし、待ってたら転校生の正体がわかるかも」

「北内さんミーハーだね。僕もちょっとワクワクしてるけどね」

 俺たち四人、そして教室に残っているクラスメイトも、ドキドキしながら近づいてくる集団を待つ。

 そしてその集団がいよいよ俺たちの教室のすぐ近くに来た。と思ったら……。

「やっほーみんな」

 茜がひょっこりと顔を出して、俺たちに向かって手を振りながら教室に入ってきた。

「茜。ちょうどよかった。俺たちお前に聞きたいことが───」

「わかってるよカズくん。転校生について、でしょ?」

あ、転校生ってのは当たってたのか。

「やっぱり転校生か。一体誰なんだ?」

「それは見てもらった方が早いかな? そして真人にお客さんだよ」

「え?」

 このタイミングで俺に客って……どう考えてもその客ってのは転校生だろう。噂の転校生が俺に用があるって? どういう状況なのか意味がわからん。

「茜。それはどういう───」

「まぁまぁ。それも見てもらった方が早いから……入ってきてよ。キョーちゃん」

「え?」

 茜の声が合図となり、噂の転校生が姿を見せた。

「なっ……!!」

 その姿を見て、俺の頭は真っ白になった。

 その転校生は、一哉が言ったように綾奈に匹敵するような美少女だった。

 紫の長く綺麗な髪、千佳さんより少し低いくらいの身長、華奢なのに出るところはしっかり出ている抜群のスタイル。男子はもちろん女子も美少女と言ってしまう程の美貌の持ち主の転校生。

 いや、そんな……ありえないだろ。

 だって、俺は彼女を見たことがある。

 見たのはクリスマスイブ、綾奈とのデートで行った映画館。

 彼女はスクリーン越しに見ていた女優、氷見ひみ杏子きょうこその人だった。

 そして、そんな女優が俺に用があるってことは……映画館で感じたことは、俺の勘違いではなかった。

 氷見杏子は俺を見つけると、目を輝かせながらまっすぐ俺に向かって走ってくる。

「マサッ! 久しぶり!!」

 そして、昔の呼び名そのままに俺を呼んで抱きついてきた。

「「ええええぇぇぇぇぇぇええ!!」」

 当然、それを見ていた一哉たちや他のクラスメイト、そして氷見杏子について来た上級生もめちゃくちゃ驚いていた。

「き、杏子 ぇ!?」

 そして俺も、彼女を昔の呼び名そのままに呼んでいた。


 女優、氷見杏子……その正体は小学校低学年までうちの近くに住んでいて、当時俺と茜と三人でよく遊んでいた俺のいとこ、中筋杏子だった。

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