第342話 綾奈の絶対領域

 ランニングから帰り、朝食も済ませて、俺は制服に袖を通していた。

「冷た!」

 昨日までにシャツも洗濯、アイロンもしていたのでピンシャキだ。……冷たいけど。

 制服を着終え、綾奈からプレゼントされたペンダントと指輪を着けた。

指輪これ、学校にして行っていいのかな?」

 ペンダントはシャツの中に入れといたら問題ないけど、さすがに指輪はそうはいかないだろうな。

 そもそも指輪をして学校に行くやつなんてほとんどいないだろうし、ましてやそれが婚約指輪と同じ意味を持った指輪となれば、持っているやつはいないだろう。

 でも、出来たらこの指輪は外したくないので、先生に注意されたら外そうかな?

「お兄ちゃんもう準備出来てる?」

 指輪をどうするか決め終えたら、妹の美奈がノックもせずに入ってきた。ノックをしないのはいつものことなんだが……。

「いやお前ノックしろよ。俺が着替え途中だったらどうするつもりだったんだよ?」

 もし俺がパンツ一丁だったらめちゃくちゃ気まずいだろう!

「え? 別にどうもしないけど? なんでお兄ちゃんの着替えにドキドキしなきゃなんないの?」

「さいですか……」

 俺が真剣に考えていたのに……この妹は俺が異性って思ってないのか? 性別……兄? それこそわからん。

「そんなことより、もう出る?」

「えっと……」

 俺はスマホで時間を確認する。

「そうだな。そろそろ出るか」

「私も一緒に行く。お義姉ちゃんと千佳さんに会いたいし」

「わかった。んじゃ行くか」

「うん!」

 俺は美奈と一緒に家を出た。

 なんか、美奈と一緒に登校って久しぶりな気がするな。


「お兄ちゃん、指輪してるんだ」

「そうだな。とりあえず注意されるまでは着けていこうかと思ってるよ」

 すぐに注意されない事を祈ろう。

「でも、注意されたらそれからは家に置いておくの?」

「いや、持ち歩かないのは嫌だから、ペンダントに引っ掛けておこうかなと思ってる」

 これなら持ち歩けるし、どこに置いたか慌てる必要もないからな。

「なるほどね。……あ!」

 美奈が前方を見て、何かに気づいたようだ。

 俺も前を見ると、T字路が見え、そこには綾奈と千佳さんが既に待っていた。

 俺と美奈は駆け足で二人に近づき、挨拶を交わしあった。

 そして俺は、近づく前から気になっていた、綾奈のあるものについて聞いた。

「綾奈。今日はニーハイなんだね」

 そう。なんと綾奈は、黒のニーハイソックスを着用していた。

「うん。ちょっと寒かったから履いてきちゃった」

「なるほど……」

 俺は綾奈の脚をじっと見る。

 もちろんめちゃくちゃ似合っているし、スカートとニーハイから覗く絶対領域なんか、誰が見ても絶景と口にするほどだ。

「真人……綾奈の脚見すぎだから」

 俺が綾奈の絶対領域に見とれていると、千佳さんが呆れ混じりに言った。

「いや、これは見ちゃうって」

「こっち見てないし!」

「あぅ~……」

「まったくお兄ちゃんは……」

 千佳さんの言う通り、俺はちゃんと千佳さんに返答をしたんだけど、俺の視線はいまだに綾奈の絶対領域を見ていた。

 俺が絶対領域ばかり見ているものだから、綾奈も恥ずかしくなったみたいだ。

「わかったから、二人きりの時にじっくり見せてもらいなって。早く行かないと遅刻するから行くよ」

「わ、わかった」

 そうして俺たちはようやく移動を開始した。

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