第336話 綾奈は綾奈

「あ、お久しぶりです」

 クリスマスの日に出会ったその女性は俺に笑顔で手を振っていたので、俺は軽く会釈をして挨拶した。

 どうやら友達と来ているようで、二人が座っているテーブルには、数種類のケーキが置かれていた。

「ケイちゃん、もしかしてこの子が?」

「そ。以前話した、麻里奈様の義理の弟くんよ」

 ケイちゃんと呼ばれた女性が、友達に俺を紹介した。

 そしてその友達の人は俺を上から下までまじまじと見ている。……この視線を受けるのも久しぶりだな。

「あっと……自己紹介がまだだったよね? 私は滝乃宮たきのみやけいよ。よろしくね」

「真面目そうないい子じゃない。私はケイちゃんの友達の城下しろした美咲みさきよ。よろしくね」

「ど、どうも。俺は───」

「あら? あなたたちまだ席に着いてなかったの?」

「あ、お姉ちゃん」

 二人に自己紹介をしようと思ったら、麻里姉ぇが声をかけてきた。その手には俺たちが注文したケーキが乗ったトレイを持っている。

 麻里姉ぇは滝乃宮さんたちを見て口で弧を作った。

「なるほど。滝乃宮さんと再会して話していたってわけね。なら、ちょうど隣が空いてるからここに置いていいかしら?」

「えっと……二人とも、いい?」

「私は大丈夫だよ真人」

「私もオッケー」

 二人とも大丈夫みたいなので、俺たちは滝乃宮さんたちの隣のテーブルに着いた。

 ケーキを持ってきてくれた麻里姉ぇにお礼を言うと、麻里姉ぇは笑顔を見せ戻っていった。

「麻里奈様……いつ見てもお美しい」

「ホントね~」

 この二人、マジで麻里姉ぇのファンなんだな。人気の芸能人を見るようにうっとりしている。

 二人が俺たちに向き直ったところで、俺たちは自己紹介をした。

 そうすると、やっぱり二人の注目は綾奈にいくわけで……。

「もしかして、あなたが麻里奈様の妹さん!?」

 滝乃宮さんのテンションが一気に上がった。城下さんも声は出していないけど、目を開いて驚いている。

「へっ!? は、はい。お姉ちゃんの妹です」

 綾奈は二人のテンションにたじろいでいた。自己紹介しただけでこれだから無理もない。麻里姉ぇの言葉を借りるなら『レアよレア』だ。

「はぁ~それにしても、綾奈ちゃんってすごくかわいいわね」

「目はぱっちりだし、髪も綺麗な黒髪で……さすがね」

 確かにこの姉妹は誰もが『美人』と答えるほどの美貌を持っている。だけど、さっきの城下さんのセリフだけは頷くわけにも、口を出さないわけにもいかない。

「城下さん。確かに二人は美人姉妹ですけど、綾奈は綾奈です。麻里姉ぇの妹だから綾奈も美人っていうのは違うと思います。綾奈が学校一の美少女と呼ばれるようになったのは、ひとえに綾奈の努力の賜物たまものだと思います。体型や美貌を維持するために、影で努力してきたからこそ、今の綾奈がいるんです。綾奈の彼氏……そして夫として、麻里姉ぇの妹だからと簡単に片付けさせるわけにはいきません」

 美人な明奈さんと、ダンディーな弘樹さんの遺伝子を受け継いでいるからってのもあるんだろうけど、やっぱり綾奈が頑張っているからだ。

「真人……」

「うちお兄ちゃんのクサイセリフはさておき、私もお兄ちゃんの言う通りだと思います。綾奈お義姉ちゃんは元から綺麗だったけど、お兄ちゃんと付き合い出してからはさらに綺麗になってますよ」

「美奈ちゃん……」

 クサイセリフって……。まぁ、自覚はあるから美奈が言葉にして言ってしまったから恥ずかしさがどんどん俺の中を埋めつくしていく。顔が熱い。

「……そうね。二人の言う通りだわ。ごめんね綾奈ちゃん」

「いえ、私は気にしてませんから。……ありがとう。真人、美奈ちゃん」

 綾奈の満面の笑みで、俺たち四人も笑顔になり、それからは和やかなムードでケーキを食べ、滝乃宮さんたちと親睦を深めた。

 美奈のやつ、ケーキを四個も食べて晩ご飯が入らなくなっても知らないぞ?

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