第335話 お昼、ドゥー・ボヌールへ

 俺たち三人は軽めに昼食を取り、それからドゥー・ボヌールに向かった。

 綾奈は美奈と手を繋いで歩いて、俺はすぐ後ろから義姉妹の仲のいい光景をほっこりしながら眺めていた。

 さすがにお昼ご飯をガッツリ食べた後のケーキは非常によろしくないので軽めにしたのだ。

 というか俺、これで三日連続ケーキを食べることになるんだけど、絶対に体重が増加してるよな……。

 この冬休みは筋トレやランニングもしてなかったから、明日からはマジでやらないとな。

 ……綾奈も俺と同じで三日連続のケーキだけど大丈夫なのかな?

 自分のお嫁さんとはいえ、そんなデリケートな部分にズケズケと土足で踏み込むのは良くないから、きっと大丈夫だと思っておこう。

「こんにちは~」

 程なくしてドゥー・ボヌールに入店。綾奈が元気よく挨拶した。

「いらっしゃ……って、綾奈ちゃんと真人君じゃないか。いらっしゃい」

「こんにちは拓斗さん」

 今回俺たちを出迎えてくれたのは拓斗さんだ。

 一昨日は千佳さんと翔太さんに何かされて項垂れていたけど、ちゃんと回復したみたいでよかった。

「それと、綾奈ちゃんと手を繋いでる可愛い子は……初めて見る子だね?」

「は、はじめまして。真人お兄ちゃんの妹の中筋美奈です」

 美奈は緊張しながらも拓斗さんに自己紹介をした。イケメンに見られてドキドキしてるんだろうな。

「真人君の妹なんだね。俺は宮原拓斗……千佳の兄だ。よろしくね美奈ちゃん」

「千佳さんのお兄さん!? あ、確かに目が似てるかも……」

 確かに、一昨日は気づかなかったけど、千佳さんと目元が似ている気がする。

「おい拓斗。そろそろ練習を再開する……って、綾奈ちゃんに真人君じゃないか。いらっしゃい」

「よく来たわね。あら? 今日は美奈ちゃんも一緒なのね?」

「こ、こんにちは松木先生」

 拓斗さんと話していると、松木夫妻もやってきた。

 すると、店内にいる女性客から黄色い声が上がった。この有名夫婦が揃って出てきたからお客さんもテンションが上がってるようだ。

 そういや美奈が麻里姉ぇに会うのって、これで二回目なんだよな。

 初めて会ったのは、俺が熱を出して、綾奈が合唱コンクール全国大会から帰ってきてすぐに俺のお見舞いに来てくれて、その綾奈を送っていくために麻里姉ぇが俺の家に来て以来……もう二ヶ月くらい前だ。

「麻里奈。この子ってもしかして」

「えぇ。真人の妹さんよ」

「やっぱり! はじめまして。綾奈ちゃんの義理の兄の松木翔太です。よろしくね美奈ちゃん」

「は、はい! 中筋美奈です。よろしくお願いします!」

 美奈、拓斗さんのときよりさらに緊張してるな。

 こんな爽やかイケメンに笑顔で自己紹介をされたら、俺でもそのかっこよさに見惚れてしまうくらいだからな。

「じゃあ、席に着く前に注文をもらおうかな。 綾奈ちゃんはモンブランで、真人君はショートケーキでいいかい?」

「そうですけど、なんでわかったんですか?」

 普通こっちがオーダーするはずなのに、翔太さんは俺の注文したいケーキをあっさりと言い当ててしまった。

 綾奈も何も言わないってことは、綾奈もモンブランでいいみたいだ。

「二人はここに来ると、最初はほぼ確実にモンブランとショートケーキを注文するからね。今回もそうかなって思っただけさ」

「もしかして、よく来るお客さんのも覚えてるんですか?」

「一部の常連さんは覚えてるかな。二人は僕の家族だからね」

 俺たちのやり取りをケーキを食べながら見ていたお客さんの何人かどよめいていた。多分だけど、『家族』って単語に反応したんだろうな。

 クリスマスケーキを買いに来た時みたいな絡まれ方をするのは勘弁してほしいな。

「美奈ちゃんは何にする?」

「えっと……じゃあ、チョコレートケーキで」

「わかった。あとで持っていくから好きな席に座ってて」

「「「はい」」」

 松木夫妻と拓斗さんは厨房に戻っていったので、俺たちは空いている席に移動を開始した。

 奥の方へ歩いているのだけど、女性客からすごく見られる。

 翔太さんが『家族』って言ったからめっちゃ注目されてる。

 歩くペースを上げ、早くここを脱しようとしたら、一人の女性客に声をかけられた。

「お久しぶりね。麻里奈様の義弟おとうとくん」

「え?」

 呼ばれた方を向くと、そこにはクリスマスケーキを買いに行った時、俺に声をかけてきた女性の姿があった。

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