第334話 美奈の本音

「いってらっしゃい真人」

「遅くでいいからね~」

 私と美奈ちゃんは、雉を打ちに行く真人を手を振って見送った。

 でもごめんね美奈ちゃん。私は真人に早く帰ってきてほしいな。

 真人が部屋から出ていってから少しして、美奈ちゃんが私の肩に頭を預けてきた。さっきまで私が真人にしていたのと同じように。

「どうしたの? 美奈ちゃん」

「……うん」

 美奈ちゃんは一言だけ言って、それからはなかなか話そうとしない。

 だけど、その一言だけで美奈ちゃんの感情がわかった私は、美奈ちゃんの頭を優しく撫でた。

 きっと美奈ちゃんは、私が今日で帰るのを寂しいって思ってくれているんだ。

「……ねぇ、お義姉ちゃん」

「なぁに? 美奈ちゃん」

「……本当に、帰っちゃうの?」

「っ……うん」

 本音を言えば、私も帰りたくない。

 愛する旦那様と、私を心から慕ってくれている義妹の美奈ちゃんがいる生活は、毎日が本当に楽しかった。

 良子さんと雄一さんも優しくて、この家は居心地がよすぎる。

 でも、今日で冬休みは終わり。

 お泊まり初日から……ううん、真人がこのお泊まりを提案してくれた時から、この時が来るのはわかっていた。わかっていたけど考えないようにしていた。この冬休みを、最高の思い出にしたかったから。

「…………やだ」

「美奈ちゃん」

「お義姉ちゃんともっと一緒にいたい」

「……ありがとう美奈ちゃん。そう言ってくれてすごく嬉しいよ。それに私だって美奈ちゃんと同じ気持ちだよ」

「……本当?」

「うん。美奈ちゃんが私に甘えてきてくれるのも、本物のお姉ちゃんのように慕ってくれているのも凄く嬉しくて、私も美奈ちゃんともっと一緒にいたいよ」

「じゃあ……!」

「でも、やっぱり帰らなくちゃいけないの」

「…………」

 一瞬、美奈ちゃんが明るい笑顔を見せてくれたけど、すぐにその笑顔は曇ってしまった。

 今の美奈ちゃんに、こんなこと思うのはいけないってわかってるけど、私が帰ることにこんなにも悲しい思いをしている義妹に、離れなければいけない辛さと同時に、嬉しいって思ってしまう。

 私は身体ごと美奈ちゃんの正面に向き、美奈ちゃんを優しく抱きしめた。

「お義姉ちゃん……」

「約束するよ美奈ちゃん。私はまたここにお泊まりしに来るよ。私の両親と、美奈ちゃんのご両親も許してくれてるんだから、泊まろうと思えばいつでも来れるんだよ。だから、次に私がこの家にお泊まりした時は、今回以上にいっぱいおしゃべりしようね」

「お、ねえ、ちゃん……うえぇっ!」

 美奈ちゃんから嗚咽が聞こえてきて、肩も震えている。

 私はそれ以上何も言わずに、ただ美奈ちゃんを抱きしめたまま、その頭を優しく撫で続けた。

 ありがとう、美奈ちゃん。


 しばらくして泣き止んだ美奈ちゃん。その目は少しだけ腫れていた。

「ごめんねお義姉ちゃん。突然泣いちゃって」

「ううん。気にしないで」

「その、お義姉ちゃんがしてくれた約束、凄く嬉しかった」

「えへへ。よかった」

 美奈ちゃんが笑顔を見せてくれて嬉しくなる。

「でも、いいの?」

「何が?」

 お泊まりしに来るよことを言ってるのかな? それだったら全然気にしなくてもいいのに。

「私にばかり構ってたら、お兄ちゃんと一緒にいる時間が減っちゃうんじゃない?」

 なるほど、そっちね。

 真人と一緒に過ごす時間ももちろん大事だし、次にお泊まりしに来るときも、真人にすっごく甘えるつもりだよ。だけど───

「大丈夫。真人といる時間もちゃんと確保するつもりだし、美奈ちゃんとの時間もいっぱい取るから。……そうだ! 次は一緒にお風呂に入ろっか?」

 考えてみたら、美奈ちゃんとは一回も一緒にお風呂に入ってなかったんだよね。……真人とは三回も入ったのに。

 そこだけが心残りだと思ったから、次は絶対に実現したいな。

「うん。……今から凄く楽しみ!」

「じゃあ、指きり、しよっか?」

 私が小指を出すと、美奈ちゃんもゆっくりと小指を出し、それから指きりをした。

 次のお泊まりの楽しみがまた一つ増えちゃった。

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