第332話 ベッドの中で今日を振り返る夫婦
「ふわぁ~~」
綾奈が大きな欠伸をした。
もう夜も遅い時間。スマホで何時かを確認すると、既に十一時を回っていた。
「ふぁ~~」
大きな欠伸をする綾奈を見て、俺もつられて欠伸をしてしまった。
「ふふっ、真人も眠くなっちゃった?」
「ん~、そうかも」
俺は右目を指で擦りながら言った。
今日は遊園地に行ったり、家に帰ったらサプライズで誕生日パーティーが開かれたりと、楽しく嬉しいことがいっぱいあったが、それに比例して疲労も蓄積していったようだ。
「もう寝ちゃう?」
「そうだね。明日はドゥー・ボヌールに行くし、寝坊してもアレだから寝よっか」
「うん」
俺は、綾奈が俺から離れたタイミングで立ち上がり、大きく背伸びをした。
「マグカップ、下に持っていくよ」
「あ、私もちょっと下に行くから、一緒に行こ?」
そうして一階に降り、リビングでマグカップを水につけてからトイレに行き、二階に戻った。
本来なら綾奈はここで美奈の部屋に入り、そのまま就寝するのだが、綾奈は美奈の部屋を素通りし、俺の部屋に入った。
実は、お泊まりも今日が最後ということで、父さんと母さん、それに綾奈のご両親も、綾奈が俺の部屋で寝ることを許してくれた。
ここで昨日も同じベッドで寝たと正直に言ったんだけど、それでも許してくれた。
しかも、『変なことはするな』とは言われていない。これは俺たちの親に信用されたと思うことにした。
「今日はどんな風に寝る? 枕を二人で使うか、腕枕か」
どんな風にと聞いたが、俺たちが二人で寝るときの体勢は大体この二択だ。
「腕枕で寝たい」
「りょーかい」
俺はベッドに入る前に指輪を外して、勉強机に四つ折りにしてあるハンカチの上にそっと指輪を置いた。来週の土日のどちらかに指輪を入れる箱でも買ってくるかな。
俺たちはベッドに入り、綾奈のリクエスト通りに腕枕をした。
「まさと~♡」
綾奈が俺の胸に額を擦り付けて愛情表現をしてきたので、俺は嬉しくなり、鼻を鳴らして綾奈の頭を優しく撫でた。
密着した状態で、俺は今日の出来事を思い返していた。
「今日、楽しかったな」
「うん! 遊園地では色んな乗り物に乗ったし、いい出会いもあったし、真人とペアルックも出来て、また忘れられない思い出が増えちゃった」
「本当にね。菊本さん親子は良い人だったし、アトラクションも……絶叫系は早く克服して、綾奈と思いっきり楽しめるようになりたい」
「そうなったら私も嬉しいけど、無茶だけはしないでね?」
時間はいっぱいあるし、俺の苦手意識が根深くならない程度に頑張るつもりだ。無理に乗りまくって本末転倒になったら元も子もないしな。
「わかってるよ。……遊園地もそうだけど、帰ってからも驚いたよね」
「そうだね。まさかお父さんとお母さんがいるとは思わなかったよ」
「綾奈のご両親から『息子』って言われたのは嬉しかったな」
あの二人から綾奈の婚約者として認めてもらってるけど、『息子』って言われたのは先月の二十六日、綾奈を迎えに行った時に明奈さんに言われて以来だし、弘樹さんには初めて言われた。
たった十六歳の高校一年生のガキを、大切な娘の結婚相手として認められていることが本当に嬉しかった。
「真人のあんなに号泣してる姿を二日連続で見ちゃったし」
「あの、綾奈さん。出来ればそれは忘れていただけると……」
「や~だ。絶対忘れないよ」
「う……ですよねぇ」
綾奈ならそう言うと思った。
まぁ、俺も綾奈のこれまでの色んな表情を覚えているから、おあいこか。
「さて、そろそろ電気消すよ?」
時刻を確認すると、もう日付が変わっていた。綾奈とおしゃべりをしていると時間があっという間に過ぎてしまう。
「うん。……あ、その前に」
「ん?」
「……おやすみのちゅう、まだしてないなって」
「っ!」
頬を赤らめてからの上目遣い……俺をドキドキさせるには十分すぎるほどの威力だ。
俺から距離を詰めて、綾奈におやすみのキスをした。
すぐ離すつもりだったけど、綾奈がなかなか離れてくれなかったから、結局一分くらいキスをした。
そういや、今日はこれまでキスをしてなかったからな。朝もハグだけだったし。
そう思うと、綾奈が唇を離さなかったのもわかるし、唇を離した今は……俺がその気持ちになっていた。
「ねぇ、綾奈」
「なぁに?」
「その……もうちょっと、しよっか?」
「っ…………うん!」
綾奈の表情がパアッ明るくなり、それから俺たちはどちらともなく引かれあって、また唇を重ねた。
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