第331話 明日は三人でドゥー・ボヌールに

「ただいま~」

「おかえり綾奈」

 弘樹さん達が帰ってから、各々風呂に入った。

 最初は美奈、その次に俺が入って、俺のあとに綾奈が入り、パジャマ姿で俺の部屋に入ってきた。さすがに今日はみんないたので一緒には入らなかった。

「ココア入れてるよ」

「わぁ、ありがとう真人」

 綾奈の入浴にかかる時間はこの冬休みで大体わかったので、そろそろ出ると思ったタイミングで一度リビングに行き、自分と綾奈の飲み物を作っていた。

「じゃあ、お願いします」

「おう」

 俺は綾奈からドライヤーを受け取り、コードをコンセントに差し込む。

 昨日は綾奈が俺の髪を乾かしてくれたので、今日は俺が綾奈の髪を乾かす番だ。

 このやり取りも、今日で最後なんだと思うとやっぱり寂しくなるけど、また二週間後に出来るから、悲しむより二週間後を楽しみにしよう。


 綾奈の髪を乾かし終え、俺はベッドにもたれるように座り、綾奈はそんな俺に背中を預けて座った。

 風呂上がりの綾奈からシャンプーのいい匂いが俺の鼻腔をくすぐる。

「ありがとう真人」

「どういたしまして」

「えへへ。 まーさと~♡」

 綾奈は甘えたように俺の名を呼び、猫みたいに俺の胸に頬擦りしてきた。

 俺はそんな綾奈の頭を優しく撫でる。

 この冬休み中に何度もやってきた綾奈とのスキンシップ。何度やっても幸せすぎて心が喜びで満たされていく。

「それにしても、真人と美奈ちゃんであんな予定を立ててたなんて」

 綾奈の一言で、俺は弘樹さん達が帰った直後、玄関前での美奈と綾奈とのやり取りを思い出していた。


「そうだ。綾奈、美奈。明日って暇?」

「私は暇だよお兄ちゃん」

「私も大丈夫。何かあるの真人?」

「うん。美奈、クリスマスの夜、ケーキ食べてる時にした話、覚えてるか?」

「クリスマスケーキを食べてる時にした話? ……あっ!」

 どうやら思い出したようだな。

「そう。年が明けたらドゥー・ボヌールに行こうって話だ」

 当初、俺は三が日くらいに行くものとばかり思っていたけど、俺の腰の怪我や初詣、中学三年の時のクラスメイトからの呼び出しや、綾奈の俺の誕生日に向けたサプライズ大作戦等があり行けずにいた。

「したした! 冬休みは色々あったからちょっと忘れてたけど」

「忘れてたのかよ。……それで綾奈」

「なぁに真人?」

「良かったら明日、三人でドゥー・ボヌールに行かない?」

「え? 私も行っていいの? てっきり兄妹で行くんだと思ってたけど」

 美奈と兄妹水入らずでってのも悪くないけど、それはまた今度だ。

「当たり前だろ。むしろ俺も美奈も、綾奈と一緒に行きたいからさ」

「うん! お義姉ちゃんと一緒に行きたい! ね? いいでしょ? お義姉ちゃん」

 美奈は綾奈の腕を持っておねだりしている。珍しいな……こんなに妹モード全開の美奈は。

「ふふっ、愛する旦那様とかわいい義妹いもうとの頼みとあったら断れないよ。いいよ、行こう」

「やったぁ! ありがとうお義姉ちゃん!」

「ありがとう綾奈」


「美奈のやつ、ドゥー・ボヌールに行ったことがないってクリスマスに話してて、それなら年明けに行くかって話になったんだよ」

「そうだったんだね。ふふっ、この冬休み中、美奈ちゃんとどこかに出かけることがあまりなかったから明日が楽しみだよ」

 確かに、綾奈が美奈と一緒に行ったのと言えば、歓迎会の回転寿司と、元日の初詣くらいだ。

 約二週間、うちに泊まっていて、それだけしか一緒のところに行ってない。……まぁ、その原因は俺が綾奈とほぼずっと一緒にいたからなんだけど。

 最後なんだ。義姉妹の楽しい思い出を作ってほしい。

「美奈と行くのが楽しみなんだ」

 だけど、俺の心にちょっとしたイタズラ心が芽生えて、ついそんなセリフを言ってしまった。

「確かに楽しみだけど、一番はやっぱり真人と一緒にいられるからだよ。わかってて言ってるでしょ?」

「ははっ、バレた?」

「バレバレです。もぉ~……ふふっ」

 そんなやり取りがおかしくて、俺たちはどちらともなく笑いあった。

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