第330話 次回のお泊まりの予定

 楽しい時間はあっという間で、いつの間にか夜の九時を過ぎていた。

 弘樹さんと明奈さんが帰宅するということで、俺たちは玄関まで見送りすることにした。

「雄一さん、良子さん。今日はお招きいただきありがとうございました。とても楽しい時間でした」

「こちらこそ、息子の誕生日パーティーにお越しいただきありがとうございました」

「雄一さん、良ければまた一緒に呑みましょう」

「良いですね! 是非!」

 父さんと弘樹さんが呑みの約束を交わしている様子を母さんと明奈さんが苦笑しながら見ていた。

 両家の親同士も仲が良くて安心するな。

「そうだわ。綾奈」

「なに? お母さん」

 親同士の会話も一区切りついたところで、明奈さんが綾奈を呼んだ。

「パジャマと明日着る服以外は先に持って帰るから取ってきなさい」

「え?」

「明日、家に帰ってくるんだから、荷物は軽い方が良いでしょ? 帰ったら洗濯もしておいてあげるわ」

「……うん。ありがとう」

 テンションが明らかに下がりながら、綾奈は二階に上がっていった。

 理由は、俺と同じだろうな。

 明日で冬休みが終わる。ということは、綾奈が俺の家で寝泊まりするのも今晩が最後になる。

 約二週間綾奈とずっと一緒に過ごしてきたから、いざ明日で終わると考えると、やっぱりむちゃくちゃ寂しい。

 三学期が始まっても、綾奈にはずっとうちで暮らしてほしい……本音を言えばそれだ。

 だけど俺たちはまだ学生で、両親に養ってもらっている立場だ。

 当然、それを俺たちが勝手に決めることは出来ないし、お互いの両親に迷惑をかけてしまう。

「はい、お母さん」

 綾奈が二階から服や下着が入っているであろう袋を持ってきて、それを明奈さんに渡した。テンションは低いままだ。

「真人君」

「……はい」

 弘樹さんの呼びかけに、テンションが下がっていた俺は力なく返事をした。

「綾奈との生活はどうだった?」

 そんなの決まってる。

「とても楽しくて、幸せでした。愛する人が同じ家にいる生活って、こんな感じなんだなって……」

「綾奈は?」

「……私も真人と同じだよ。今までにないくらい、幸せな時間だった」

「そうか」

 弘樹さんはそう言って目を閉じた。

 弘樹さんは俺たちにこんなことを聞いて、一体どうしたんだろう?

 もうすぐ夢の時間は終わるから、早く現実に戻れと、わざと言っているのだろうか?

 わかってる……わかってるんだけど、この幸せな夢から醒めたくない。綾奈にはずっと俺の隣にいてほしい。

 弘樹さんは目を開け、明奈さんと、それから俺の両親と目を合わせ頷きあった。

「綾奈、真人君」

「なに? お父さん」

「はい」

 俺と綾奈に優しく呼びかける弘樹さん。

 弘樹さんの次の言葉に、俺と綾奈は驚いた。


「これからはたまに、どちらかの家に泊まりなさい」


「「え!?」」

 どういうことだ!? たまに泊まれって……。

「弘樹さん、それはどういう……?」

「言葉通りの意味だよ真人君。雄一さんと良子さんからこの冬休みの綾奈の様子を聞いたんだが、綾奈は真人君と一緒に暮らしていて、本当に幸せそうに笑っていたと、そして綾奈がいることで、真人君も、そして雄一さんたちも笑顔が増えたと聞いてね。綾奈が望むならたまに泊まりに来てほしいと中筋家の皆さんも言っていたし、今度はうちで真人君をお泊まりに招待したいと思ったんだよ」

 マジかよ。そんなことを俺たちが遊園地に行っている間に親同士で話し合っていたのか。

 確かに、この冬休みに綾奈が泊まりに来てくれたことによって、美奈は綾奈に甘えていたし、父さんと母さんも笑顔が増えていた。

 綾奈が加わることによって、俺たち家族が喜びで彩られていったんだ。

 そんな綾奈が明日には帰ってしまうのは、止められないけどやっぱり寂しい。

 そんな中で、さっきの弘樹さんの言葉には本当に驚かされた。

 次に綾奈と一緒に暮らせるのは、どんなに早くても春休みだと思っていたから、俺としては願ってもないことだった。

「……いいんですか?」

「あぁ、もちろん」

「ありがとうお父さん!」

 綾奈も満面の笑顔で弘樹さんにお礼を言った。

「それでね真人君。真人君の都合が良かったらなんだけど、今月の二十日の金曜日に、うちに泊まりに来てくれないかしら?」

 今度は明奈さんが俺にそう提案してきた。

「えっ!?」

「二十日ですか? ……あ、なるほど」

「ふふ。どうやらわかったみたいね?」

「はい。その翌日の二十一日は、綾奈の誕生日だからですね?」

「正解! さすがね真人君」

 一月二十一日は綾奈の誕生日だ。

 俺の誕生日のちょうど二週間後になっていて、今年は綾奈の誕生日も土曜日になる。

「綾奈は絶対に真人君に一番に「おめでとう」って言ってほしいでしょうし、真人君も一番最初に言いたいでしょ?」

「それはもちろん」

「う、うん!」

「じゃあ決まりね! 真人君が泊まりに来てくれるの、今から楽しみだわ♪」

 明奈さんは両手をパンッと合わせて笑顔で言った。

 こうして俺は、再来週の土曜日に、綾奈の家にお泊まりすることが決定した。明奈さんが言ったように、俺も今から楽しみだ。

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