第329話 7人で1日遅れの誕生日パーティーを
それからリビングに移動して、俺の一日遅れの誕生日パーティーがスタートした。
誕生日パーティーと言っているが、ようは弘樹さんと明奈さんを交えての夕食だ。弘樹さんと明奈さんも一緒に食卓を囲んでくれるにあたり、さすがにいつものテーブルだと七人分の料理は置ききれないし座れないので、リビングのテレビ前に置かれているローテーブルにも料理が置かれることになった。
俺はせっかくなので、弘樹さんと明奈さんと一緒に、テレビ前で食べることにした。
会話も弾んだ。
父さんと母さんは、昨日の雪の影響で一泊することになった旅行の、文字通りの土産話を、美奈は茉子の家で一晩過ごしたことを、そして俺と綾奈が麻里姉ぇと翔太さんにもらったチケットで遊園地デートをしたことなど、話題には事欠かなかった。
「あぁ、だから二人はペアルックしてるんだね」
当然、綾奈とペアルックをすることになった経緯も話した。
菊本さんたちの一件を誤魔化すことも出来たけど、それをするとここにはいない菊本さん家族に申し訳ない気がしたし、せっかくの出会いをなかったことにしてしまいそうだったから、五人にちゃんと話した。
「あらそうだったのね。綾奈、その方達にちゃんとお礼を言ったわよね?」
「もちろんだよお母さん」
明奈さんも、そこで綾奈がお礼を言わない性格ではないとわかっているだろうけど、これは親だったら聞かずにはいられないのだろう。
夕食のあとは、お待ちかねのバースデーケーキだ。
ケーキが入っている箱を見るに、どうやらドゥー・ボヌールで買ったのではなく、ショッピングモールで買ってきたものらしい。
「ドゥー・ボヌールで買おうかと思ったけど、もしかしたら真人は昨日、そこでケーキを食べたかもしれないと思ったから別の所で買ってきたのよ」
俺がどこで買ってきたやつなのかと聞くと、母さんがそう答えた。
昨日、誕生日パーティーを開いてくれていたのは想定済みだったようだ。
「確かに昨日、ドゥー・ボヌールには行ったけど、ドゥー・ボヌールのケーキは食べてないよ」
「ん? どういうことだい真人君?」
弘樹さんだけでなく、俺と綾奈以外の五人の頭上にクエスチョンマークが見える。
ドゥー・ボヌールに行って、そこのケーキを食べずに何をやっていたんだよ? ってみんなの顔がそう言っている。
「実はですね弘樹さん。綾奈がサプライズで俺のバースデーケーキを焼いてくれていたんですよ」
「え!? お義姉ちゃん、ケーキも作れるの!?」
俺の言葉にいち早くリアクションしたのは美奈だ。
美奈だけじゃなく、俺たち双方の両親も驚いていたし、「まあ!」とか「すごい」とか驚きの声が出ていた。
「え、えっと……お義兄さんに頼んで、作り方を教わったの。真人の誕生日に、どうしても自分で作ったケーキを食べてほしかったから」
まさかこれほど驚かれるとは思ってなかった綾奈は、俯き照れながら言った。その表情も最高に可愛い。
「教わって数日ってレベルじゃないくらい美味しかったですよ。正直、翔太さんの作るケーキよりも美味しかった」
「そ、それはいくらなんでも大袈裟すぎるよ真人!」
「でも実際にそう感じたしなぁ」
「あ、あぅ……」
まぁ、お嫁さん補正がかかってそう感じたんだろうけど、だとしても昨日綾奈のケーキを食べた時は翔太さんのケーキ以上に美味しいと感じた。
「え~お兄ちゃんいいな~。私もお義姉ちゃんが作ったケーキ食べたかったー」
「じゃあ美奈ちゃんの誕生日に作ってあげるね」
「いいのお義姉ちゃん!?」
「もちろん」
「やったぁ! お義姉ちゃん大好き!」
美奈は両手を上で広げて喜んでいる。
しかし、さっきのはお願いでもなんでもない、単なる美奈のボヤキみたいなものだ。それなのに綾奈は自ら美奈の誕生日にケーキを作ることを引き受けるなんて……俺のお嫁さん、マジで優しすぎるだろ。
「美奈ちゃんの誕生日っていつなの?」
「四月十日だよ」
「四月十日だね。えっと……」
綾奈はスマホを手に取り、カレンダーアプリで四月十日が何曜日なのか確認を始めた。
新年度が始まってすぐのタイミングなんだよな。それほど環境が変わるわけではないけど、やっぱりバタバタするだろうからな。
それ以前に土日じゃなければケーキ作りは難しいだろうし……。
「火曜日だね。これだとケーキが作れないから、美奈ちゃんさえ良ければ二日前の八日でも大丈夫かな?」
「全然大丈夫! ありがとうお義姉ちゃん!」
「大事な
こうして四月八日に美奈の誕生日ケーキを焼くことが決定した。
てか、日曜日に人気店の厨房の一部を借りることって出来るのか? いや、それを言ったら昨日の土曜日もそうなんだけどさ。
「綾奈、そういうことなら器具は家にあるから家で焼けばいいわ」
そう言ったのは明奈さんだ。
「あるの?」
「あるわよ。日曜日はドゥー・ボヌールも忙しいでしょうし、翔太君にも迷惑がかかっちゃうもの。確かにここ数年はほとんどケーキを焼いてなかったから……物置にあるはずだから引っ張り出して綺麗に洗っておくから、美奈ちゃんのバースデーケーキは家で作りなさいね」
なんか、似たようなやり取りを綾奈がここに泊まりに来る前に見たような……。
「わかった。ありがとうお母さん」
「美奈ちゃん。あなたの誕生日パーティーは私たちの家で開くことでいいかしら?」
綾奈の家でケーキを焼くんだから、美奈の誕生日パーティーの会場も西蓮寺家になるよな。ケーキ屋みたいにケーキを入れる箱があれば別だけど、さすがに一般家庭にそれはないだろうし。
「私、お邪魔しちゃっていいんですか!?」
「もちろんよ。その日と言わず、真人君と一緒に、一人ででもいつでも来ていいわよ。ね? あなた」
「そうだな。真人君の妹なら、俺たちにとっても家族だ。美奈ちゃん。いつでも来てくれて構わないよ」
社交辞令じゃなくて、ガチで言っていることが伝わってくる。
「ありがとうございます! 弘樹さん、明奈さん」
こうして、少し先の美奈の誕生日パーティーの会場と、綾奈手作りのケーキが出ることが決定した。
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