第328話 帰宅後のサプライズ
時刻は夜の七時前、俺たちは俺の自宅近くの道路を歩いていた。
菊本さんたちと別れたあと、俺たちはお化け屋敷や観覧車を楽しんで、夕方の四時半頃に遊園地を出た。
今日、遊園地に行くことを母さんたちに伝えていなかったし、夜は俺の誕生日パーティーを開いてくれるらしいので、遅くならないうちに家に帰ろうと決めていた。
そうそう。カフェラテが染み込んだ服も忘れないうちに駅前にあるクリーニング屋に預けてきた。
正直ちゃんと取れるか微妙だったけど、渡した服を見たクリーニング屋さんは、「これは本気が出せそう」と言っていた。
多分、久しぶりに汚れが落ちにくい服を見たんだろう。あれなら期待出来そうだし、今度凛乃ちゃんに会った時はいい返事が出来そうだ。
「今日、楽しかったね」
「ああ。それにいい出会いもあったしな」
「ね~。また会いたいな」
「麻子さんにはスーパーに行けば会えるし、義之さんと凛乃ちゃんにもまたすぐに会えるさ」
「うん!」
俺たちは今日一番の思い出……菊本さん親子に出会ったことを振り返りながら歩き、程なくして俺の家に到着した。
「灯りが付いてるね」
「うん。母さんたち、帰ってきてるみたいだね」
元々日帰り旅行の予定だった母さんたち。雪の影響で、旅先で一泊することになったけど、多分そこからすぐにこっちに帰ってきたのだろう。
茉子の家に泊まった美奈は……おそらくだけど、夕方近くまでは茉子と一緒にいたと思う。あいつら本当に仲良いもんな。
少し強い風がふいて、その冷たさが俺たちを直撃した。
「寒っ! 早く入ろう」
「そうだね」
俺たちは早く家に入ろうと、足早に移動して玄関を開けた。すると───
パンッ! パパンッ!
玄関を開けた瞬間、大きな破裂音と共に、紙テープが俺と綾奈の頭上に降ってきた。
「一日遅いけど、お誕生日おめでとうお兄ちゃん!」
「……え?」
まさかサプライズでこんな出迎えをされるとは思ってなかったので、なんとも薄いリアクションになってしまった。
昨日、ドゥー・ボヌールでもこんな感じだったなぁ。
だが、俺と綾奈が本当に驚いたのはこのあとだった。
「お、お父さん!? それに、お母さんも!」
なんと、俺の家族だけかと思っていたんだけど、その中に綾奈のご両親、弘樹さんと明奈さんもいたからだ。
「えっ!? お二人とも……どうして?」
「驚かせてすまないね真人君。麻里奈から昨日が真人君の誕生日と聞いてね」
「それで良子さんに電話したら、今日真人君のお誕生日会を開くって聞いたから、お邪魔させてもらったの」
「そ、そうだったんですね……」
知らなかった。父さんと母さんが、裏で弘樹さんたちとそんな計画を立ててくれていたなんて。
それに、俺の誕生日を祝うために、こうして家にまで来てくれてサプライズしてくれるなんて……。
本当に、俺は綾奈の家族に……大切にされているんだな。
そう改めて思うと嬉しくなって、俺の目から涙がこぼれた。……昨日から泣いてばかりだ。
俺が自分の涙を拭っていると、弘樹さんと明奈さんが俺の傍に来て、二人で俺の両肩に手を置いた。
「誕生日おめでとう真人君。……俺たちの息子よ」
「っ! ひ、ろき……さん」
「うふふ。こんなに涙を流して……私たちの息子は本当に可愛いわ。真人君、お誕生日おめでとう」
「あきな、さん……うぅっ!」
綾奈のご両親からの温かい言葉、そして厚い信頼が伝わってくるようだ。
俺は、お二人からちゃんと綾奈の将来の夫として認められていたんだな。
お泊まり初日、綾奈を迎えに行った時に明奈さんから「息子」って言われたけど、弘樹さんも俺のこと、「息子」って言ってくれた。
お二人からの心からの誕生日を祝ってくれる言葉と、「息子」という一言が嬉しすぎて、また涙が溢れてくる。
でも、ただ泣くだけじゃいけない。
お二人にちゃんと言葉で返さないと。
「ぐすっ、ありがとう、ございます。……お義父さん、お義母さん」
俺は両肩に置かれているお二人の手の上に自分の手をそっと添え、涙でくしゃくしゃになりながら、初めて自分からお二人を「お義父さん」「お義母さん」と呼んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます