第327話 また会えますか?
トイレで着替えた私は、元々着ていたTシャツを、このTシャツを買った時に貰った袋に入れ、真人が待つ場所まで戻った。
真人、似合ってるって言ってくれるかな~って思いながら戻ったんだけど、そこには菊本さん親子しかいなくて、真人はなぜかいなかった。
「おかえりなさい綾奈ちゃん」
「ただいま戻りました。あ、コートもありがとうございます。……それであの、真人は?」
「真人君ならトイレに行ったよ。多分もう少ししたら戻ってくるんじゃないかな?」
「そうですか……」
私の質問に答えたのは義之さんだ。
あれ? 真人もトイレ行ったなら、私とすれ違ってもおかしくはないのに……。
「綾奈さん。似合ってる」
「本当ね。というか綾奈ちゃんが着るとなんでも可愛く見えちゃうわね」
「い、いえ……そんなことは……」
凛乃ちゃんと麻子さんがTシャツの感想を言ってくれたけど、麻子さんのはオーバーな気がする。
このTシャツは、誰でも着やすいデザインになっているので、麻子さんや義之さんが着ても似合うだろうし、かわいさで言えば、私より凛乃ちゃんが着たほうが絶対にかわいい。
真人が着たら……かわいさが増し増しになりそう。
そうだ。真人がトイレから帰ってきたら、真人もこのTシャツを買ってペアルックをお願いしてみようかな?
二つで一つのペンダントは持ってるけど、お揃いの服って持ってないもんね。
えへへ~。真人とのペアルック……ちょっと恥ずかしいけど、それでもやってみたいって気持ちが強くなってきてる……うん。やっぱりお願いしてみよう。
「お~い!」
その時、遠くから真人の声が聞こえたので、私は声がした方向を向いた。
そうしたら、真人が手を振りながらこちらに近づいてきた。
私は大好きな旦那様がこっちに来ていることに嬉しくなり、大きく手を振って真人を呼んだ。
「まさと~……って、ふえぇ!?」
だんだんと近づいてきた真人を見た私は驚いた。
だって、真人が着てるTシャツ……さっき私が買ったのと全く同じだったんだから!
ちょっと着替えに手間取ってしまったけど、俺は綾奈たちと合流した。
「あの、ま、真人? そのTシャツって……」
綾奈のここのTシャツ姿可愛いな~って思っていると、綾奈が俺の着ているTシャツを見ながら声をふるわせて言った。
まぁ、そりゃあ驚くよな。
「うん。綾奈とお揃いのTシャツ……ペアルックだよ」
「そ、それはわかるし嬉しいけど……どうして?」
自分が戻ってきたら俺がいなくて、その俺が戻ったら自分と同じTシャツを着ていたんだから、そりゃあ誰だってその疑問に辿りつくよな。
俺は、ペアルックになった経緯、そしてクリーニング代も貰ったことを綾奈に話した。
「そ、そうだったんだ。……その、菊本さん。本当にありがとうございます!」
「いいのよ綾奈ちゃん。頭を上げてちょうだい」
「は、はい……」
綾奈はゆっくりと、申し訳なさそうな表情をしながら顔を上げた。
「二人ともとってもよく似合ってるわ」
「うん。本当に仲のいい恋人に見えるよ。……あ、二人は夫婦だったかな?」
「お二人とも、本当にお似合いです」
三人からそんな賛辞をもらい、俺と綾奈は照れてしまう。
そして二人して互いを見て、どちらともなく笑いがこぼれた。
「綾奈。よく似合ってる」
「真人だって似合ってるよ」
「うふふ。大晦日に続いていいものを見せてもらったわ」
俺たち五人は笑いあって、とても和やかな雰囲気が流れた。
そして麻子さんがペアルックの俺たちを綾奈のスマホで写真におさめてくれた。
「さて、あまり二人の邪魔したら悪いし、俺たちはそろそろ行こうか。麻子、凛乃」
「そうねあなた」
「……」
どうやらこの三人とはここでお別れみたいだ。
麻子さんとの偶然の再会でここまで一緒になり、なんだかんだで楽しかったからちょっと残念だ。
「義之さん、麻子さん。本当にありがとうございました」
「クリーニング代までいただいてしまって……なんとお礼を言ったらいいか……」
「お礼なんかいいよ。元々こっちが悪かったし。それに、短い時間だったけど、二人と一緒に行動してとても楽しかったよ」
「それは俺たちも同じです。本当にありがとうございました」
その時、凛乃ちゃんが俺たちの傍にやって来た。
凛乃ちゃんの顔は、とても寂しそうだった。
「あの……綾奈さん、真人さん」
「なぁに? 凛乃ちゃん」
「その……また、会えますか?」
「「え?」」
凛乃ちゃんからのまさかの言葉に、俺と綾奈は驚いた。
まだ出会って一時間も経っていない初対面の高校生なのに、そんなことを言ってくれる凛乃ちゃんに、とても嬉しさが込み上げてきた。
綾奈も驚いて、俺たちはお互いを見ていたけど、すぐに優しい笑みを見せていた。
そして俺たちは、軽く頷きあってから、凛乃ちゃんを見て言った。
「「もちろん」」
俺も凛乃ちゃんと、菊本さんたちとこれっきりとは思いたくなかったから。
俺たちの返事を聞いた凛乃ちゃんは、可愛らしい笑顔を見せてくれた。
「私も真人も、凛乃ちゃんと一緒にいられて楽しかったから。遠くに住んでるわけじゃないみたいだし、凛乃ちゃんが私たちに会いたいって思ってくれたら、私たちはいつでも会えるよ」
「やくそく、ですよ?」
「うん。じゃあ指きりしよっか?」
そうして凛乃ちゃんは綾奈と、続けて俺とも指切りをした。
そうして俺たちは、誰一人『さよなら』ではなく、「また」と言って菊本さんたちと別れたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます