第326話 サプライズでペアルックに

「綾奈、コート脱いで」

「え? わ、わかった」

 移動の際、綾奈の服が目立つので、綾奈にコートを脱いでもらい、代わりに俺の上着を着せてボタンも閉じた。綾奈のコートが汚れるのが嫌だったから。

 綾奈がコートを脱ぐのと同時に、俺も自分の上着を脱いだ。

「え?」

 先にコートを脱いだ綾奈は、俺の行動を見て戸惑いの声を上げた。

「じゃあ、そのコート貸して」

「う、うん……」

 俺が何をするのかわからないながらも、綾奈は俺にコートを手渡した。

 綾奈のコートを自分の肩にかけ、俺は綾奈の後ろに移動して、そっと自分の上着を綾奈に着せた。

「ま、真人!?」

「はい、袖通して」

 驚いている綾奈をスルーして、俺は綾奈の腕を持ち、上着に通していく。

 そうしないと綾奈はこのジャンパーを脱ごうとするから。

 そして俺は素早く綾奈の正面に移動して、ボタンを閉じた。

「ほい完成」

「あぅ……」

 これならどこからどう見ても、彼氏の上着を嬉しそうに着ているラブラブなカップルにしか見えないだろう。

「ま、真人の上着が汚れちゃうよ」

「俺のは黒だしそこまで目立たないし、たとえジャンパーに付いたとしても内側だから他の人には気付かれないよ。てか濡れた部分は冷たいでしょ? 早く服を買いに行こう。義之さん、お願いします」

「わかった」

 義之さんは早足で移動を開始し、俺も義之さんの後に続いた。

 俺が綾奈のコートを持っているので、綾奈もこれ以上抗議するのを諦めて付いて来てくれた。

 そうして五人でやって来たお土産屋さんで、菊本さん夫婦がここのマスコットキャラクターである青い鳥がプリントされた白いTシャツを買ってくれて、綾奈はすぐさま近くのトイレに着替えに行った。

「お二人とも、重ねてになりますがありがとうございました」

「いや、いいんだよ。それよりこれ……」

 義之さんは、茶色い封筒を俺に手渡してきた。

 何かと思い、封筒に入っている物を取り出すと、なんと一万円札だった。

「いやいや、義之さん。これは受け取れません!」

 何考えてんだこの人!? Tシャツを買ってくれたんだから、これでこの件は一件落着したはずなのに、なんでまだこんな大金を俺に渡してきてるんだよ!?

 俺は一万円札をすぐさま封筒の中に入れて、義之さんにそれを返そうとした。

「それは綾奈ちゃんの服のクリーニング代だよ。それ───」

「さすがにそこまでしていただくのは申し訳ないです! 綾奈だってきっとそういうはずです。だからこれは受け取れません!」

 それに、クリーニング代だけなら一万円は入れすぎだ。どう考えても半分以上はお釣りになる。

「真人君、俺の話を最後まで聞いてほしい」

「え?」

「その一万円には、君への誕生日プレゼントの意味も含まれているんだよ」

「俺の、誕生日プレゼント?」

 まだ知り合って一時間経ってるか怪しい俺の誕生日プレゼントも兼ねているにしても、一万円をポンと出すかな?

 それに、誕生日プレゼントが現金って……。

「君もこれでさっきのTシャツを買って、綾奈ちゃんとペアルックにと思ったんだよ」

「ペアルック?」

 ちょっと恥ずかしいけど、でもやってみたいかも……。

「私も二人のペアルック姿見たいわ!」

「あ、麻子さん」

「わ、私も、見たいです」

「凛乃ちゃんまで!?」

 そんな目をされたら、断りづらい……。

「な? 二人もこう言ってるし、俺たちにペアルック姿を見せてくれると嬉しい」

「……わかり、ました」

 俺は悩んだ末、この一万円を受け取ると決めた。

「ありがとう真人君」

「いえ、お礼を言うのはこっちですよ」

「まあまあ。さあ真人君。綾奈ちゃんが帰ってくる前にTシャツを買って着替えましょ?」

 なるほど。どうやらサプライズで綾奈を驚かそうとする作戦か。

 ちょっとワクワクしてきた。

「わかりました。じゃあ買って着替えてきますね」

 俺は義之さんたちにお辞儀をして、綾奈がさっき買ったTシャツを購入し、綾奈のコートを麻子さんに預け、綾奈が向かったのとは別のトイレに行き、これに着替えるのだった。

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