第324話 菊本家族の驚き
「でも、本当にすごい偶然ですね」
菊本さん達を綾奈の待つ席へと案内した俺。
奥さんの麻子さんを見て、綾奈もすごく驚いていた。
「ホントね。まさかこんなところで再会するなんて思わなかったわ」
「多分、あのスーパー以外では会わないと思ってましたからね」
それなのに、電車とバスで片道二時間の所にある遊園地で再会するなんて予想できるはずもない。
「それにしてもすまないね。せっかくの二人きりデートを邪魔しちゃって」
義之さんがマジで申し訳なさそうに言ってきた。
「気にしないでください。困ったときはお互い様ですから」
「真人の言う通りですよ」
綾奈はにっこりと菊本さん達に微笑んだ。それを横で見ていた俺はドキドキしていた。
「……なんというか、本当に素敵な夫婦だね」
「ね? だから言ったでしょ? あら?」
義之さんにそんな風に言われて、少し照れていると、麻子さんが俺の手を見て何かに気づいたようなリアクションをした。
「真人君も指輪してるわね。大晦日にはしていなかったのに」
「あぁ、これはですね────」
俺は三人にこの指輪をもらった経緯を話した。
「まぁ、そうだったのね! おめでとう真人君」
「おめでとう真人君」
「おめでとうございます」
「皆さんありがとうございます」
知り合ったばかりなのに、こうして誕生日を祝ってくれて嬉しいな。
「じゃあ、ここには誕生日デートで来たのかしら?」
「実は、綾奈のお姉さん夫婦が福引きでここのペアチケットを当てて、だけどお店があるからってことで、そのチケットを貰ったんですよ」
ただでさえ繁盛してるからな。翔太さんが一日店を空けるわけにもいかないだろうしな。
そういやドゥー・ボヌールって定休日ってあるのかな? 今度ネットで調べるなり翔太さんか麻里姉ぇか拓斗さんに聞いてみよう。
「あら、綾奈ちゃんのお姉さん夫婦はお店を経営してるの?」
「はい。私の義理の兄がドゥー・ボヌールというケーキ屋さんを経営してます」
「「「えっ!?」」」
菊本一家の驚きの声が見事にハモった。
ドゥー・ボヌールは有名店だし、そこの店長の翔太さんも地元では有名人だもんな。そんな人が義理の兄だなんて言われたらそりゃ驚くわな。
「今日は、いや、君たちと出会ってから驚かされてばっかりだな」
「本当ね。二人がその歳で婚約してるのにも驚いたけど、綾奈ちゃんの義理のお兄さんが、まさかあのドゥー・ボヌールの店長さんだったなんて」
「お姉ちゃんたちの知り合いって言ったら、安くケーキ食べれないかな?」
「こ、こら凛乃!」
「ごめんなさいね綾奈ちゃん」
「いえ、大丈夫ですよ」
まぁ、小学生ならそう思うのも無理はないな。
でも実際に割引してくれるかと言われれば、答えはノーだ。
実際、俺も綾奈と付き合ってから何回か行ったけど、割引をしてくれたことはない。それは家族である綾奈も同じだ。
以前クリスマスケーキを半額で売ってくれたけど、あれは綾奈との婚約祝いとして特別に割引してくれた。
だから、ドゥー・ボヌールには、基本的に家族や知り合い割り引きはない。
特定の人だけを割り引きにしていたら、他のお客さんから不平不満が出るのは避けられないからな。当然だ。
そのことを凛乃ちゃんに伝えると、凛乃ちゃんはわかりやすくガッカリしていた。
子供のささやかな夢を壊してしまった感があるけど、これは仕方がない。
「綾奈さん、何飲んでるの?」
「これ? ホットミルクティーだよ」
ドゥー・ボヌールの話題で一通り盛り上がったあと、凛乃ちゃんは綾奈が飲んでいるミルクティーをじっと見ていた。
「美味しい?」
「美味しいよ。凛乃ちゃんも飲む?」
「いいの?」
「もちろん」
「じゃあ私のカフェラテと交換しよ?」
凛乃ちゃん、カフェラテ飲んでたのか。
というか、凛乃ちゃんは紅茶、飲めるのかな?
俺は、小学生の頃は紅茶特有のあの味が苦手で飲めなかった。甘いミルクティーもだ。
だから少し凛乃ちゃんが心配だったのだが、この様子なら大丈夫そうだな。
凛乃ちゃんは席を立ち、とてとてと綾奈の方へ小走りで向かっていたのだが。
「あっ!」
綾奈の近くで足がもつれてしまった。危ない! 凛乃ちゃんが倒れる。
「凛乃ちゃん!」
綾奈が咄嗟に立ち上がり、凛乃ちゃんを抱きとめたため、凛乃ちゃんに怪我はなかった。
だけど、凛乃ちゃんの持っていたカフェラテはコップから出てしまい、綾奈の白のTシャツにかかってしまった。
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