第322話 真人の苦手なアトラクション
メリーゴーランドに乗ったあと、俺たちは次に乗るアトラクションに向けて移動していた。
綾奈はさっきの約束以降、ずっと上機嫌だ。
メリーゴーランドでは二人で馬車に乗ったのだが、その時も綾奈は俺にピタッと笑顔で寄り添っていた。
俺も、そんな綾奈と一緒にいられて本当に幸せで、笑顔になった。
……綾奈が次に乗りたいアトラクションを指定するまでは。
「ジェットコースター、楽しみだね」
「……ソウダネ」
次に乗ろうとしているのは、これまた遊園地では定番の乗り物、ジェットコースターだ。
何を隠そう、俺はこういった絶叫系が苦手だ。乗れないことはないのだが、正直目を開けるのが怖いし、乗ってる間はずっと手すりにしがみついている。
だが、綾奈は絶叫系が好きらしく、さっきの俺との約束でテンションが上がった綾奈はジェットコースターを指定してきた。
俺はそれを聞いて背筋が寒くなったのだが、こんなに楽しみにしている綾奈をガッカリさせたくなかったので、強がり全開で「いいね。行こう」と言ってしまった。
綾奈はけっこう大人しい性格から、絶叫系も苦手だろうと思っていたのだが、全然そんなことはなかった。ギャップってやつだな。エアホッケーも強いし。
そんなこんなでジェットコースター待ちの列に並んだ。
緊張でノドが乾くし、心臓も鼓動が早い。
手汗は大丈夫かな? ビビってるって綾奈にバレたら、綾奈はきっとしょんぼりしてしまうから、ここは余裕があるフリをしなければ。
「ここのジェットコースター、前来た時も乗ったんだけど、けっこう早くて都会の遊園地にも引けを取らないんだよ」
「ソ、ソウナンダー……」
聞きたくなかった情報が俺の耳に入ってしまった。
俺はジェットコースターのレーンを見る。
確かに、ここのジェットコースターは全長距離が長いし、スピードも早い。カーブや一回転するところもあるし……俺、本当にこれに乗らなきゃダメなのか?
顔から血の気が引き、足がすくみそうになる。
「……怖いなら、やめる?」
「え?」
俺が内心でビビり散らかしていると、綾奈が優しく声をかけてきた。
「真人、絶叫系が苦手なんでしょ?」
「な、なんで……俺は全然余裕だよ」
動揺を必死に隠すため、俺は空元気にそう言った。だけど……。
「無理しなくてもいいよ。私は真人の動揺を見抜けないほど鈍感じゃないし、真人をずっと見てきたから余裕がないのもわかるよ」
「……ごめん。正直言うとめっちゃ怖い」
これは誤魔化しきれないと思った俺は、観念して本音を漏らした。
申し訳ないと言う気持ちと一緒に、俺のこと、ちゃんと見てくれているんだなと思い、嬉しくもなった。
「うん。正直に言ってくれてありがとう」
「いやいや、お礼を言われるところじゃないって」
むしろガッカリされるかと思ったんだから。
「ううん。お礼を言う場面だよ。だって真人は、私がジェットコースターに乗りたいのを叶えるために、わざと本心を隠して自分も乗りたかったのように振舞ってくれたんでしょ?」
「まぁ、うん……」
これもお見通しか。
「私に悲しい顔をさせないために言ってくれた嘘だもん。真人の、旦那様のその嘘がとっても嬉しかった。だからありがとうだよ」
「綾奈……」
まったく……。俺のお嫁さん、本当に最高すぎるだろ。
「ね? だから無理しないで、他のアトラクションに乗ろうよ」
そうして綾奈は列から離れようとしたけど、俺は動かなかった。
「真人?」
「俺、乗るよ」
「え?」
俺の決意は固まった。
「大げさかもしれないけど、綾奈の優しさに甘える場面じゃないなって思ってね」
「で、でも、真人はジェットコースターは怖いって……」
「確かに言ったよ。でも、それだと綾奈は、毎回ジェットコースターとかの絶叫系に一人で乗らなきゃいけなくなるだろ?」
他のみんなと一緒に来たらそんなことにはならないけど、それだと俺は、いつまでも絶叫系に乗る綾奈を見送るだけになってしまう。
「それなら絶叫系に乗らなければいいだけだし……」
「絶叫系が好きな綾奈が遊園地に来てジェットコースターに乗らないのは、綾奈が遊園地を存分に楽しめないのと一緒だから」
「だから、怖いのを我慢して一緒に乗ってくれるの?」
「うん」
楽しむのなら、俺も一緒にいたほうがもっと楽しんでいられるはずだから。
「それに、絶叫系を克服するいい機会だよ。だから綾奈、ジェットコースター乗ろうよ」
「……わかったよ」
少しの逡巡ののち、綾奈はジェットコースターに乗ることを決めた。
「ありがとう綾奈」
「お礼を言うのはこっちのほうだよ。ありがとう真人」
それから俺たちは笑いあった。
怖さも少しは紛れたみたいだ。
ほどなくして俺たちはジェットコースターに乗り込んだ。
……なんでよりによって一番前なんだよ!?
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