第320話 園内に入って早々に……
電車に揺られること一時間半、そしてそこからバスに乗り三十分移動し、俺たちは目的地の遊園地にやってきた。
「へえ、けっこう大きいんだね」
俺はここに来たことがない。田舎の方の地域にある遊園地だから、そこまで面積は広くないだろうと思っていたけど、俺の予想よりもだいぶ広かった。
「真人はここには来たことないの?」
「うん。初めて。綾奈は?」
「私は小さい頃にあるよ~。久しぶりだな~」
綾奈は昔を懐かしむように目を閉じている。
小さい頃の綾奈かぁ、きっと天使みたいに可愛いんだろうな。
「なら今日は、綾奈に案内を頼もうかな?」
「うん! 任せて」
綾奈は胸の辺りで握りこぶしを作ると、俺に満面の笑みを見せてくれた。
綾奈と遊園地デートってだけでテンションが爆上がりなのに、こんな笑顔を見せられたらもう……。
俺は心臓がバクバクし、顔も熱くなったが、なんとか平常心を保って綾奈と二人、手を繋いだまま入場ゲートに移動した。
入場ゲートで、受付のお姉さんに昨日麻里姉ぇと翔太さんからプレゼントされたチケットを渡す。
「はい、確かに。それでは楽しんできてくださいね」
「「ありがとうございます」」
半券を受け取った俺たちは、ゲートをくぐり、園内へ足を踏み入れた。
「さっきのお姉さん、綺麗な人だったね」
綾奈が言った。
確かに、見た目は二十代中頃くらいで、あの半券を返す時の笑顔は綺麗だった。
「そうだね」
そう思った俺は、綾奈に同意したのだが───
「……むぅ」
綾奈は頬を膨らませて不満の声を漏らしてしまった。どうやら選択肢を間違えてしまったようだ。
俺たちがお互いの浮気やそれに準ずる行為を疑うことはもうないが、やはり他の知らない異性を素直に褒めるのは嫌なようだ。
俺も……そうだな。もし綾奈がすれ違ったイケメンに対して、「あの人かっこいいね」とか言っていたら少しへこむ。
「……ごめん」
かなりのチョロインの綾奈だが、ここで咄嗟に、「綾奈の方が可愛いよ」と言っても、かえって逆効果の可能性もあったので、俺は一言謝った。
「……なんてね」
「え?」
ジト目を向けていたから、やらかしてしまったと思ったのに、綾奈から聞こえてきたのはそんな言葉だった。
今までにないパターンだったから、俺は面食らってしまった。
「さすがにもうそんなことではヤキモチは妬かないよ。真人の一番は私ってわかってるからね」
ちょっとイタズラめいた表情でウインクをする綾奈。控えめに言って最高に可愛すぎる。
「び、びっくりした……。そりゃあ、綾奈が一番だよ。それは一生変わらない」
「えへへ♡ 私も真人が一番だよ」
綾奈は微笑んで、俺の腕に抱きついてきた。
ああもう、一挙手一投足がマジで反則級に可愛すぎる。ちょっと抱きしめてもいいですかね?
「……ん?」
俺は、俺に甘えてくる綾奈をドキドキしながら見ていたのだが、ここで俺たちと同じようにこの遊園地に入場してくる人たちの視線を感じて辺りを見た。
すると、俺たちを横切る際、みんな俺たちのやり取りを見ていた。なにやら微笑ましい表情や、生暖かい視線を向ける人もいる。
「っ!」
しまった。ついいつもの感じになっちゃったけど、ここ、外だし、いつものツッコミを入れてくれる一哉や茜もいない。
「綾奈、綾奈!」
俺は、いまだに俺にくっついている綾奈の肩を手で揺らしながら呼んだ。
「どうしたのまさ……と……」
綾奈も周りの人の視線に気づいたようで、その顔はみるみるうちに赤くなっていった。
「あぅ~…………」
「と、とりあえず移動しようか!」
「う、うん……」
このままここにとどまっていると、さらに目立ってしまうので、俺たちは早々に移動を開始した。
これ、マジでいつものやり取りをしないように気をつけないといけないな。
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