第319話 真人到着

「綾奈お待たせ……って、なんで翔太さんと店長がここに?」

 綾奈が自分をアピールしてくれたから、駅に到着してわりとすぐに見つけられたけど、まさか翔太さんとゲーセンの店長の磯浦さんと一緒にいるのは予想出来なかった。

 ナンパの代わりに二人と会ったのかな?

「やぁ真人君。実はね……」

「お、お義兄さん! 言っちゃダメ!」

 綾奈が珍しく大声で翔太さんに待ったをかけ、翔太さんも言葉をとめた。

 まぁ、正直なところ、今の綾奈のリアクションで、何があったのかは大体想像できた。

「う~ん……ごめんね綾奈ちゃん。僕はやっぱり心情的には真人君に味方したいかな」

「お、お義兄さん……」

「あー翔太さん。言わないでいいですよ。綾奈はナンパされてたんですよね?」

「ふぇ!? な、なんでわかるの!?」

 逆になんでわからないと思ったのか……。

「さっきの綾奈のリアクションでわかった」

「うぅ~……」

「すごいね真人君。よくわかったね」

「まぁ、綾奈がトラブルに巻き込まれるのって、大体がナンパですからね」

「麻里奈ちゃんといい、やはり美人姉妹は目立つもんな」

 店長が「あっはっは」と豪快に笑った。

 あの麻里姉ぇがこんな一通りの多い所で立っていたら、声をかけろと言ってるようなものだし、世の男は麻里姉ぇとお近付きになりたいと思うだろうな。

「翔太さんも同じような経験をされたんですね」

「それはもう凄かったよ。僕があとから待ち合わせ場所に行ったら、必ずといっていいほど誰かに声をかけられていたからね」

「さすが麻里姉ぇ……」

 そのあと「二人の邪魔したら悪いし、買い出しの途中だから」と、翔太さんと店長は去っていった。てか、店長翔太さん自ら買い出しに行くんだな。

 まぁ、それはその店ごとのルールというか特徴みたいなのがあるか。

 それはさておき……。

「ねぇ、綾奈?」

「な、なに? 真人……」

 俺は満面の笑みで綾奈を呼ぶと、綾奈は肩をビクッと跳ねて、おそるおそるといった感じで俺を見た。多分、俺がこれから言うことがなんとなくわかってるからだろうな。

「しばらくは綾奈が先に現地で待つのは禁止ね」

「……はーい」

 綾奈は肩を落としながら、渋々といった感じで頷いた。


「それよりも真人。ど、どうかな?」

 綾奈はくるりとその場で一度回ってみせた。

「うん。すごく可愛いよ」

 今日の綾奈のコーデは、白のTシャツにアウターは厚手のコート、下はデニムのショートパンツに黒のニーハイソックス、そして薄ピンクのスニーカーと、軽装だけど暖かそうな装いだった。

 綾奈の絶対領域に自然と視線が吸い寄せられてしまう。

 それに、髪も後ろで束ねられていて、最近家で見せてくれる髪型になっていた。

 お日様に照らされて、ピンクゴールドの指輪もきらりと光っている。

「えへへ~、ありがとう真人。やっぱり真人に言ってもらうのがいちばん嬉しい」

「どういたしまして。まぁ、可愛いのは本当だし、本心だもん」

「も、もぉ~褒めすぎだよぉ♡」

「それに髪も」

「うん。動いて髪が乱れないようにと、真人がこの髪型が好きって言ってくれたから、今日はこのヘアスタイルにしてみました」

 動きやすさを重視したら、俺の好きな髪型になった……俺と綾奈、双方が得をするまさにwin-winだ。

「真人もかっこいい」

「そ、そうかな?」

 俺の今日のコーディネートは、黒のスニーカーに普通のデニム、薄いけどあったか素材の白のインナーに、黒のジャンパーのオーソドックスと言えるコーデだ。

「うん。すごく似合ってるよ」

 だけど、どんな格好をしても、こうやって綾奈が褒めてくれる。

 嬉しいんだけど、本当に似合っているのか若干不安だったりする。

 俺が自分のコーディネートに不安がっていると、綾奈が両手で俺の左手を軽く握った。

「指輪……してくれてるんだ」

 綾奈は俺の左手の薬指にはめられている指輪を見て微笑んでいる。

「当たり前じゃん。綾奈からもらった大切な指輪、このデートの日につけないでいつつけるんだよ」

 デートじゃなくても、風呂と寝るとき以外はずっとつけるつもりだけどな。

「嬉しい……真人、大好き」

「俺も大好きだよ。じゃあ行こうか」

「うんっ!」

 俺たちはにっこりと微笑みあって、手を繋いで移動を開始した。

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