第317話 ナンパ師達の軽率な言動

 真人じゃない人に声をかけられて、私のテンションは明らかに下がっていた。

 にこにこしながら私に声をかけてきた二人組。黒髪と茶髪の、見た目は真面目そうな大学生……? に見えるけど、この笑みを見ると、わりとナンパ慣れしているのかもしれない。

「人を待ってるんです」

 私は素っ気なく答えると、プイッとそっぽを向いた。

 むぅ……せっかくわくわくしながら真人を待ってたのに……早くどこかに行ってくれないかな?

「待ち合わせ? もしかして女の子?」

「マジ!? じゃあ俺たちとダブルデートしようよ」

 勝手に想像して、勝手に予定を決めようとする。ナンパ慣れしてるけどあまりモテないんだろうな。

「結構です。それに今から来るのは女性じゃないです」

「え? 彼氏?」

「でも君を待たせるとか、その彼氏ありえなくない? 男なら早く来て彼女を待たないと」

 私たちのことを何も知らないのに、真人をバカにされてカチンときたけど、おちつけ私。今はこらえるんだよ。

「今日は私が彼を待ちたいってお願いしたから、こうして待ってるんです。それに、今から来るのは『彼氏』ではないですよ」

 そう……真人は私の彼氏ではない。それ以上の存在だ。

「じゃあ、付き合う前の段階? なら、俺らにしときなよ」

「……はい?」

 黒髪の人が言ったことがわからず、私は首を傾げた。

「その仕草可愛いね! てか、そんなやつより俺たちの方が君を楽しませてあげるから、その彼には急に行けなくなったって言ってごまかして、俺たちと遊びに行こうよ」

 茶髪の人が「可愛い」と言ってくれたけど、全然嬉しくない。気持ちがこもってるのかも怪しいし。

「すみません。お二人とは遊びに行きません。それに、『彼氏』じゃないと言いましたが───」

 そう言いながら、私は自分の左手を二人に見せた。

「今から来るのは、私の『夫』ですから」

「「……は?」」

 二人は目を点にして驚いていた。

「え? 君、結婚してるの?」

 茶髪の人が指を震わせながら私の指輪をさした。真人なら人を指さすことなんて絶対にしないのに。

「実際にはまだです。私は十五歳の高校一年生ですから。でも、その彼と婚約しているのは本当です」

「なーんだ。じゃあそれ、じゃん」

 黒髪の人が、笑いながら手を出してきた。

 いや、それよりも───


 ……オモチャ?


 真人からもらった大切な指輪を、オモチャって言った?

「触らないで!!」

 私は叫んで、手をすごい勢いで引っ込めた。

 私の声に反応して、周りの人たちも私たちを見ている。

 だけど、みんな見るだけで、そのまま通り過ぎていく。

 でも、大学生の後ろから、ゆっくりとこっちに近づいてくる二人組がいる。

 一人は細身で髪が赤みがかっていてメガネをしている。

 もう一人はものすごく体格のがっちりした男性で───

「え!?」

 私がその二人に気づいて声を上げたのと同時に、その二人が背後から大学生の肩に手を置いた。

「お、お義兄さん! 店長さんも!?」

 その二人組は、私の義理の兄の松木翔太さんと、私が真人とよく通っているアーケード内にあるゲームセンターの店長、磯浦颯人さんだった。

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