第315話 朝からイチャつく夫婦

「ん、んん……」

 翌朝、目が覚めた俺は目を擦りながら隣を確認する。

「あれ? 綾奈は……?」

 隣で寝ていたはずの綾奈がいない。

「今、何時だ?」

 俺はローテーブルに置いてあったスマホに手を伸ばした。

 手を布団から出したことにより、冷たい空気が腕にまとわりつく。めっちゃ寒い。

「七時半、か……」

 もうこんな時間か。わりと寝過ごしてしまったらしい。

 となると、綾奈は既に起きて朝食を用意してくれているのかもしれない。

 昨日、日帰り旅行に行った母さんと父さんが、雪の影響で帰れなくなって、この時間に戻ってくることは考えにくいので、おそらくそうだろう。

 起こしてくれたら手伝ったのにと思わないでもないが、俺が寝すぎたのもあるし、綾奈の性格からしてそのまま俺を寝かして一人で朝食を作るのは想像に難しくないので、やはり俺が寝過ごしたのが悪いな。

 俺はベッドから上半身を起こし、両腕を上げて背伸びをした。

 その最中、部屋のドアが三回ノックされた。

『まさと~、起きてる~?』

 ドア越しから愛しの綾奈の声が聞こえて、俺はそれで完全に覚醒した。

「起きてるよ」

 俺がそう言うと、ドアが開き綾奈が入ってきた。

 綾奈は既に部屋着に着替えていて、エプロンをしていた。新妻感がハンパない。

「おはよう真人」

「おはよ。綾奈」

 俺たちは互いの顔を見て朝の挨拶をした。

「朝ごはん、出来てるよ」

 やっぱり朝食は綾奈が作ってくれたみたいだ。

「ありがとう綾奈。それからごめんね」

「? どうして謝るの?」

 綾奈は首を傾げた。やはり可愛い。

「綾奈にだけ朝食を作らせて、俺は今までぐーすか寝てたから、申し訳なくてね」

「そんなこと気にしないで。真人の朝ごはんを作れるのが楽しみで早起きしちゃったから」

「え? そうなの?」

「うん。旦那様の朝ごはんを作るの、すっごく楽しかった」

「っ!」

 満面の笑みでそう告げる綾奈が可愛すぎて、俺は綾奈から目を逸らし、右手の甲で自分の口を隠した。

「それ、久しぶりに見た~。照れてる真人、やっぱりかわいい」

「綾奈が嬉しいことを言ってくれるからだよ」

「えへへ。だって本当のことだも~ん」

 なんか、いつもより上機嫌だな。俺の朝食を作るのが楽しかったのは本当みたいだ。

「さ、早くリビングにおりて、一緒に食べよ?」

「ああ」

 俺はベッドから立ち上がると、綾奈が俺に抱きついてきた。

「あ、綾奈!?」

「えへへ。おはようのハグ」

 朝からスキンシップもハンパないな。でもすごく嬉しいし、これも俺たちらしさなのかもな。

 俺は綾奈を優しく抱きしめ返し、頭も撫でた。

 すると、綾奈は猫みたいに俺の胸に頬ずりしてきた。本当に甘えん坊だな俺のお嫁さん。

「さ、行こ?」

 しばらくすると、綾奈は俺の手を両手で掴み引っ張りながら移動を促した。

 リビングにおりると、綾奈が作った朝食が並べられていた。

 半熟の目玉焼き、焼いたベーコン、野菜の盛り合わせ、そして湯気が立つコーンスープと、メニュー自体はシンプルな朝食だったが、俺にはそれら全てが特別に見えた。

 トースターでパンを焼き、揃って「いただきます」を言ってから食べ始めた。

 味は、どれも文句無しに美味しかった。

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