第311話 綾奈のヘアスタイルについて

 日が傾き、そろそろ晩ごはんを作る時間になってリビングにおりた俺と綾奈。

 俺は、これから綾奈と一緒に料理が出来ると思ってワクワクしていた。

 本当の夫婦……じゃ、まだないけど、大好きなお嫁さんとの共同作業とでもいうのか……とにかく楽しみで仕方なかった。

 俺は綾奈と一緒にキッチンに入ろうとしたのだが、そんな俺を見て綾奈が両手を広げて通せんぼした。

「今回は私が一人でお料理するから、真人は座って待ってて」

「え? どうして?」

 せっかくの共同作業の機会を失いそうで、俺は少しだけ残念な気持ちになった。

「真人は今日、お誕生日だもん。そんな日に真人にお料理させるのは申しわけないし、何よりそんな特別な日だからこそ、私のお料理で胃袋を満たしてほしいから……」

 ここで「昼間も最高のケーキを食べて満たされたよ」って言うと、綾奈は照れるけど「そうだけど、ケーキとお夕飯は別だもん!」って言って頬を膨らませそうだ。

 そんな姿も見てみたいけど、ここは綾奈の言う通りにしようかな。

「そういうことなら、綾奈の料理、楽しみにしてるね」

 俺はにこっと微笑み、綾奈の頭を優しく撫でた。

「えへへ、うん。楽しみにしててね♡」

 綾奈のふにゃっとした笑顔を見て、俺はキッチンから出た。

 俺が椅子に座るのを確認してから綾奈はエプロンを着け、髪をヘアゴムで後ろで一つに束ねた。

 ヘアゴムを軽く口で咥える仕草がグッとくる!

 綾奈のこの姿を見たのは、確か大晦日以来か。

 女性は髪型一つで雰囲気がガラリと変わるなぁ。

 普段のヘアアクセを付けないナチュラルな髪型の綾奈も最高だけど、クリスマスデートの時の編み込みや、たまに見る髪を束ねた綾奈もめっちゃ可愛い。

 俺は、キッチンで手を洗い、それから冷蔵庫の中を確認しようとした綾奈を呼び止めた。

「綾奈」

「なぁに? 真人」

 綾奈は冷蔵庫に伸ばそうとしていた手をピタッと止め、笑顔で俺に振り向いてみせた。

「その髪型も可愛いよ」

「ふぇ!? あ、ありがとう真人。……えへへ♡」

 いきなり髪型を褒められると思っていなかった綾奈は、驚きながらも照れた表情を見せてくれた。

 こういう綾奈も、もう何度も見てきたはずなのに、俺の心臓はすごくドキドキしてる。

「……その、真人はいつもの髪型と今の髪型、どっちが好き?」

 綾奈は俺から見て横を向き、後ろで束ねている髪が見やすいようにして聞いてきた。

「どっちの綾奈も最高に可愛いけど、今のヘアゴムで束ねたのはあまり見ないから、やっぱり今の方が新鮮に感じる」

 微妙に質問の答えにはなっていないが、ニュアンスは伝わったと思う。

「あ、ありがとう真人。じゃあ、今日は寝るまでこの髪型でいようかな。……えへへ~♡」

 俺の答えに、綾奈は頬を赤くし、照れながら束ねた髪を何度も触っている。

 いいなぁ。

「綾奈。あとで俺もその髪、触っていい?」

 この冬休み中、綾奈の髪にはほとんど毎日触ってきた。

 綾奈の髪は本当にさらさらで美しいから、いくら触っても全く触り飽きたりはしないが、束ねた髪を触ったらどんな感触なんだろうと、興味が出てきた。

「もちろん。いっぱい触ってね」

 綾奈から秒で了承された。

「了解。楽しみにしてる」

「うん!」

 今夜の楽しみがひとつ増えてテンションが上がる。

 まぁ、そうなったら当然、髪を触るだけではすまないのだが……綾奈もそれはわかってる、よね?

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