第307話 千佳、そして松木夫妻からのプレゼント
「ほい真人。これがあたしからの誕生日プレゼントね」
俺が落ち着いてから(泣き止んでからともいう) 、千佳さんが小さめの縦長長方形の箱を出てきた。
ちなみに千佳さんのお兄さんの拓斗さんは、少し離れた席で真っ白になって項垂れていた。……何をされたのかは聞かない方がいいみたいだ。
「ありがとう千佳さん。ところでこれは?」
「オードパルファム……まぁ平たく言えば香水だね」
「香水!?」
マジか。香水なんて初めてもらった。
今までそういった類のものにはほとんど頓着がなかったからな……。
「シトラスを選んでみたけど……試しに今つけてみる?」
「う、うん」
「わかった。じゃあ開けるよ?」
俺は再度「うん」と言うと、千佳さんは丁寧に箱を開け、香水が入った容器を取り出した。
「じゃあ真人。手首出して」
「こ、こう?」
俺はおずおずと右の手首を出すと、千佳さんはそこを目掛けてシュッと香水をかけた。
柑橘系の爽やかな匂いがする。うん、いい香りだ。
「それを左の手首にも練り込んで、それから首につけてみなよ」
「わ、わかった」
俺は言われるがまま、左の手首にも香水を練り込ませ、それを首に塗った。
「綾奈。ちょっと嗅いでみなよ」
「わかった」
「ちょっ! 綾奈!?」
俺の手首に付いたのを嗅げばいいのに、綾奈は椅子から立ち上がり、何故か首に付いた香りを嗅いでいる。
昨日はマジで綾奈と触れ合えてないから、そんなことをされると抱きしめたくなる。
ここは我慢だぞ真人! みんないるんだからな!
「わぁ~、いい香りだよ~」
いや綾奈さん。顔を近づけたまま感想を言わないでください!
吐息が直接首にかかってゾクゾクする!
「綾奈、そろそろ離れてあげなって。真人が色々限界みたいだから」
「へ? …………あ」
俺の顔を見てようやく状況を理解したらしい綾奈。顔がみるみるうちに赤くなっていく。俺も顔が熱いよ。
「ご、ごめんね真人!」
「い、いや……いいから」
「ったく……なんで手首を嗅がないかねぇ」
俺は顔が熱いままうんうんと何度も首肯した。
「あぅ……だって、昨日は私のせいとはいえ真人にほとんど触れてなかったんだもん」
人差し指どうしをつんつんしながらつぶやく綾奈。
これ、みんながいなかったら絶対に抱きしめてるやつだよ。
「はいはい。そういうのは帰ってからしなって」
「じゃあ真人。次は私と翔太さんからのプレゼントよ」
麻里姉ぇがそう切り出し、俺の前に細長の茶封筒を出した。
「えっ!? 麻里姉ぇたちまで用意してくれてたの!?」
「当たり前じゃない。初めて祝う義弟の誕生日よ。何もないわけないわ」
「そうだね。拓斗の奴がいらない誤解をまねいてしまったし、それも含めて僕たちからもプレゼントを用意したんだ」
翔太さんが拓斗さんの名前を口にすると、項垂れていた拓斗さんの身体がビクッとした。すげー脅えてる。
まだそっとしておいた方が良いみたいだ。
俺は拓斗さんを見て苦笑いをして、視線を茶封筒にうつした。
「中を見てもいいですか?」
「もちろん。開けてみて」
「じゃあ……」
俺は茶封筒を手に取り、中を確認する。中に入っていたのは……。
「これ……遊園地のペアチケット!?」
「ふぇ!?」
この遊園地は、以前クリスマスイブのデートで行った、この県の一番大きな市にある遊園地だ。
「そ。前に商店街の福引きにチャレンジしたら当たったのよ。だから二人で行ってきて」
マジで? 福引きの景品ってことは、これ、一等クラスの代物だろ!?
そんなものを簡単に受け取ってもいいのか? 麻里姉ぇたちが行けばいいのではないか?
「え? 麻里姉ぇたちは行かないの?」
「行きたくてもドゥー・ボヌールがあるから行けないのよ。それに、そのチケットの有効期限も近いから」
「有効期限?」
俺はチケットの下部を見る。
すると、このチケットの有効期限は明後日の月曜日までだった。
「なるほど……」
「ね? だから私たちに遠慮しないで、あなたたち二人で楽しんできてちょうだい」
そういうことならありがたく貰うけど、でも明日は……。
「でも麻里姉ぇ。明日は冬休み最終日だから、綾奈も明日には自分の家に帰らないとだから……」
「え? 冬休みは明後日の月曜日までよ」
「……はえ?」
え? 明日は一月八日の日曜日。本来なら明日で冬休みは終わり、九日の月曜日から学校が始まるんじゃないのか?
「九日の月曜日は祝日よ」
「あ……」
そうだよ祝日があった! 麻里姉ぇに言われるまですっかり忘れてたよ。
「ね? 問題ないでしょ?」
「た、確かに」
冬休みが月曜日までなら、明日も綾奈は俺の家で夜を過ごすことになる。
つまり、時間もいっぱいあるということだ!
「じゃあ、綾奈。明日、遊園地行こっか」
「うん!」
こうして、松木夫妻から貰ったチケットで、明日遊園地に行くことが決まった。
プレゼントを貰ったあとは、綾奈の作ったケーキを食べた。
食べる前に写真におさめてから食べたのだが、とても三、四日しか練習していないクオリティではなかった。
普通に考えて、翔太さんの作るケーキが上のはずなのに、俺には綾奈が作ったこのケーキは、翔太さんのそれよりはるかに美味しく感じられた。
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