第304話 真人の誕生日に向けて④

 一月五日。

 この日は雑貨屋さんで買った真人への誕生日プレゼントにあるサービスを施してもらって、それを受け取る日だ。

 私はお昼過ぎにお姉ちゃんの車で、拓斗さんと三人とショッピングモール内にある雑貨屋さんに向かった。

 受け取りに行った際、出来上がりを見せてもらったんだけど、本当に綺麗に仕上がっていた。

 私が確認を終えると、店員さんにプレゼントラッピングをするのでしばらく待ってほしいと言われたので、三人で店内で待つことにした。

「綾奈。良いのを選んだわね」

 プレゼントを見たお姉ちゃんも褒めてくれた。

「俺も思いました。あれは真人君は喜んでくれるよ」

 拓斗さんにも同じく好感触のようだ。

「うん。それにアレも……、ギリギリ収まって良かった」

 プレゼントに施してもらったあるサービス……店員さんには入りきるか分からないと言われたけど、真人のは大きいからギリギリ何とかなったみたいでホッとした。

 ラッピングが終わり、店員さんにお礼を言ってお店を出た私たち。

 ラッピングされたプレゼントが入っている手提げの紙袋を、私は優しく抱きしめる。

「真人君の誕生日は明後日だったよね? 楽しみだね綾奈ちゃん」

 そう言って、拓斗さんが私の肩に手を置いた。

「はい!」

 私はテンションが上がっていて、満面の笑みで拓斗さんに答えた。

 拓斗さんは私をずっと妹みたいな存在だと言っていたから、この行為もなんでもないとわかっているけど──

「もしここに真人がいたらショックをうけるでしょうね」

 私が思っていたことをお姉ちゃんが言った。

 真人も先月、テスト明けに私と一緒にドゥー・ボヌールを利用したけど、ちょうどその日は拓斗さんはお休みで、だから二人は面識がない(私が真人の写真を拓斗さんに見せた)から、何も知らない真人がここだけを見たら、真人はショックをうけないまでも、いい気分にはならないはず。

「ご、ごめん綾奈ちゃん!」

 拓斗さんはパッと手を離した。

「いえ、ちょっとびっくりしましたけど気にしないでください」

「というか、麻里奈さんも人が悪いなぁ……真人君がここにいるわけないじゃないですか」

 今日、真人は山根君、茜さん、清水君と遊ぶって言ってたけど、どこに行くかは聞いていない。

 でも、このショッピングモールに来てるなんてこと……ないよね?



 そして昨日の一月六日。

 夕方近くに、私はお義兄さんからおつかいを頼まれた。

 ここ数日、ケーキ作りを教えてくれたお義兄さんに報いるために、私は二つ返事で了承した。

 拓斗さんが同行してくれたけど、ちょっと距離をあけて歩こう。

 私たちを知らない人が見ても、私たちは恋人じゃないですよってアピールしないと。

 私の彼氏……旦那様は真人だけだもん。

 私の意図を察してくれたのかわからないけど、拓斗さんは私との距離を詰めるようなことはしてこなくて、一緒に買い物に行ってるのに、ちょっと不自然な距離で歩いた。

 少し歩くと駅近くのファミレスが見えてきた。

 そういえば、今日真人はここでマコちゃん達と会ってるんだよね?

 あの三人とは何もないとわかっているので特に心配はしていない。

 だけど、私が真人の知らない男の人と二人で歩いているところを万が一にも真人に見られたくなかったので、私は人混みに紛れるようにして歩いた。


 真人の誕生日前日の練習も終わり、あとは明日の本番で私に出来る最高のケーキを作るだけ。

 夕食を食べ終え、お片付けを手伝った後、真人がお風呂から出てくるまで美奈ちゃんの部屋でスマホを操作していたはずなのに、気づいたら寝てしまっていた。多分、連日の練習で疲れていたからだと思うんだけど、真人のお部屋に行けなかった。

 連絡もしなかったから、きっと真人は遅くまで待っててくれたよね。

 うぅ~、真人ごめんね。


 そして真人の誕生日当日の今日、一月七日。

 朝五時に目が覚めた私は、昨日お風呂に入らずに寝入ってしまったことを思い出して、既に起きていた良子さんに言って、すぐにお風呂に入った。

 全身をくまなく、念入りに洗い、身体を拭き、赤の勝負下着を付け、その上から部屋着を着てお風呂から上がる。

 今日は真人の誕生日だもん。私の全力でお祝いしたくて、気合を入れるために勝負下着を着用した。

 け、決していつもよりえっちな展開を望んでるわけじゃないから!

 お風呂から上がったあとは、忍び足で美奈ちゃんの部屋に戻った。

 良子さんの用意してくれた朝食を食べ、いつもより早めに家を出た。

 昨日までに私の頭と身体に叩き込んだノウハウを全て活かし、真人に今の私に出来る最高のバースデーケーキを食べてもらうために……。

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