第298話 綾奈からの着信

「……集中出来ない」

 一人になった俺は、部屋でラノベを読んだりゲームをしたり、掃除をしたりしたが、やっぱりどうにも集中出来ない。

 理由はわかりきっているだけに、そのことばかり考えてしまう。

「綾奈、今何してるんだろうな?」

 そんな独り言と一緒にため息が漏れた。

 去年まではなんとも思わなかったけど……一人で過ごす誕生日って、こんなに虚しいものだったっけ?

 俺は、昨日プレゼントされたブックカバーに入ったラノベをローテーブルに置いて、ベッドに寝転がった。

「綾奈……会いたい」

 昨日の夕食以降、綾奈を見ていない。

 まだ一日経ってないけど、ここ数日は色々考えてしまって、今すぐ綾奈に会いたくて仕方がなかった。

「ま、そう言っても無理なんだけどな」

 多分、あと六時間くらいは我慢しないといけない。俺はそれがとても長く感じられた。

 六時間という長さがとてつもなく長いと思っていると、スマホに着信が入った。

 スマホを手に取り、電話をかけてきた人物を確認する。

「!!」

 その人物は、会いたくて仕方がない俺の婚約者、綾奈本人だった。


 スマホのディスプレイに表示されている【西蓮寺綾奈】の文字に、俺の鼓動がものすごく早くなる。

 若干震えている指で、しっかりと通話ボタンをタップし、ゆっくりとスマホを耳に当てた。

「も、もしもし?」

 やべ、ちょっと声が震えている。

『もしもし。ごめんね真人、突然電話しちゃって』

 なんだろう……綾奈の声が、少し弾んでいるように感じる。

「大丈夫だよ。どうしたの?」

 不思議に思いながら、俺は要件を促す。

『あ、うん。……えっと、真人って、今家にいる?』

「いるよ」

『良かった』

「良かった?」

 何にたいしての言葉なのかがわからず、俺は聞き返した。

『うん。真人、突然なんだけど、今からドゥー・ボヌールまで来られるかな?』

「ドゥー・ボヌールに? まぁ、大丈夫だけど」

『本当!? じゃあ、その……ま、待ってるね』

「わ、わかった」

 綾奈との通話はそれだけで終了した。

 綾奈の声、最後はなんだか緊張してる感じだったな。

 ドゥー・ボヌールはケーキ屋。そこに今から来いってことは……。

「綾奈、もしかして……」

 俺はベッドから起き上がり、準備をしてドゥー・ボヌールへ向かった。

 綾奈に会いたい。

 ドゥー・ボヌールへ近づくにつれ、俺の鼓動は早く、激しくなっていった。

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