第297話 誕生日当日

「……ん、んん~」

 窓からの陽の光と、小鳥の囀りが目覚ましとなり、俺は目を開けた。

 まだ瞼が重い……まぁ、全然寝付けなかったから無理ないか。

「今、何時だ?」

 俺は枕元に置いてあったスマホを手に取り時刻を確認する。

「八時過ぎてんのか……ん?」

 時刻の下に、メッセージの通知がある。しかも綾奈から!?

 え? 同じ家にいるのに、なんでメッセージが?

 不思議に思いながらも、俺は綾奈からのメッセージを確認することに。

【おはよう真人。昨日はお部屋に行けなくてごめんね。今日も用事があって、いつもより早く出るから真人にいってきますって言おうと部屋を覗いたら、真人はまだ寝てたからメッセージしました。昨日は遅くまで起きてたのかな? 待っててくれたのにお部屋に行けなくて本当にごめんね。いってきます】

「……」

 綾奈、もういないのか……。

 一番最初に直接「お誕生日おめでとう」と言ってほしかったけど、俺が寝過ごしてしまったから仕方ない……よな。

 俺は気分が沈んだまま、リビングに下りた。

「あら真人、おはよう。誕生日おめでとう」

「真人、おめでとう」

 リビングに行くと、母さんが洗い物をしていて、父さんがテレビを見ながらコーヒーを飲んでいた。土曜日だから父さんも休みだ。

「おはよう。ありがとう二人とも」

 俺は二人に挨拶とお礼を言い、食パンをトースターにセットした。

 朝はご飯派だったのに、冬休み中綾奈と一緒に生活するようになってからは、すっかり綾奈と同じパン派になってしまった。

「おはよ~」

 トースターにパンをセットしたタイミングで、美奈も起きてきた。まだ眠いのか、目をこすっている。

 俺たちは美奈に朝の挨拶をした。

「お兄ちゃん誕生日おめでと~」

「ありがとう美奈」

「お義姉ちゃんには言ってもらった?」

 痛いところをつかれたが、嘘をつくわけにもいかないから、俺は無言で首を横に振った。

「そっか……」

「綾奈ちゃんは用事があるって朝早くから出掛けて行ったけど、やっぱり真人の誕生日を知らないのかしら?」

「多分……」

 綾奈に言ってもらえないのはこの際仕方ないとして、今日も綾奈と一緒にいられないと考えると心臓がズキリと痛んだ。

「綾奈さん、どうしたんだろうな?」

「ね。このところ日中はずっといないし」

 父さんたちも綾奈が何をしているのかは知らないみたいだ。

「美奈は綾奈が何をしてるのか知らないのか?」

「私も知らない。お義姉ちゃんに聞いてもはぐらかされるし」

 普段は自爆して本当のことを喋る綾奈だけど、それもないなんて……。

 パンが焼けたので、俺はそれをお皿に移しテーブルに置いた。

「そうだわ。真人、美奈」

「何?」

「私とお父さんは今日、日帰りの旅行で隣の県に行ってくるから。帰りは夜になるから帰ったらみんなでケーキを食べましょう」

 日帰り旅行……そんなのを予定していたのか。

 まぁこの二人、元々旅行好きだからな。

「いいな~旅行~」

「はいはい。今度はみんなで行きましょうね。もちろん、綾奈ちゃんも一緒に」

「でも大丈夫? 確か午後は雪マークになってたけど……」

「大丈夫でしょ」

 そう言って父さんと母さんはパパッと準備を済ませて行ってしまった。

「お兄ちゃん。私も今日はマコちゃんの家に遊びに行くから」

 玄関で両親を見送った直後、美奈が言った。

「いいけど、お前宿題は終わったのか?」

「昨日終わらせたよ」

 ここ数日はずっと机にかじりついていたからな。

 そうしてお昼前には美奈も出掛けていき、家には俺一人だけとなった。

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