第295話 確信を持つ3人
三人と別れ、帰宅し夕食を食べ、風呂から上がった俺は、ベッドに寝転がっていた。
今日は綾奈が俺より先に風呂に入り、後から入った俺の髪を綾奈が乾かす番だったのだが、綾奈は何やらやることがあるらしく、美奈の部屋にあるローテーブルで何かをしていて、先に入ってと言われて風呂に入った。
ちなみに美奈はまだ宿題と格闘していた。
俺はまだ完全に完治していない腰を気遣いながら起き上がり、勉強机の方へ歩いた。
勉強机の傍まで来ると、俺はそこに置いてある、クリスマスイブに綾奈からもらったペンダントを手に取った。
綾奈の持っているものと合わせて、二つで一つのペンダント。
「綾奈……」
愛しい人の名を呼び、ペンダントを優しく握り締めながら、俺はファミレスでのやり取りを思い出していた。
「真人君。綾奈ちゃんとあの男の人なんだけど……」
「うん」
「はっきり言って、真人君が心配しているようなことは全くないと思う」
「……は?」
香織さんも、先日の健太郎と同じことを口にした。
「どうして、わかるの?」
「それは───」
「距離感だよ。真人お兄ちゃん」
茉子が割って入ってきた。どうやら茉子も、二人の間には何もないと確信を持っているみたいだった。
「距離感?」
俺はそのまま聞き返した。
「うん。二人を見てよ」
俺は既に小さくなっている二人の背中を見た。
「二人の間には、人一人分くらいの隙間があるよ。もし本当に綾奈さんが浮気をしているのなら、綾奈さんからあの人との距離を詰めてくっつくはずだよ」
確かに、二人は手なんて繋いでないし、二人の間も三十センチくらい開いている。
どちらも互いのパーソナルスペースに踏み込もうとしていない。
「それに~、少ししか見てなかったけど~、西連寺さんには、真人君と一緒にいる時の幸せそうな感じは微塵もなかったわね~」
「ですね。私もすぐ気づきました」
「え? そんなにすぐ気づくもんなの?」
それとも、俺がショックを受けて、それすらもわからなかったのか……?
「真人お兄ちゃんは当事者だから……真人お兄ちゃんと一緒にいる時の綾奈さんを見ている私たちだからすぐに気づけたんだと思う」
「うん。綾奈ちゃんは真人君のそばにいると、幸せが溢れてる……それはもう隠せないほどに。まぁ、本人は隠そうとしてないけどね。さっきの綾奈ちゃんには、それが一切感じられなかった。なんというか、恋人というより兄妹みたいな感じ……そう、真人君とマコちゃんみたいな関係の方が近いようにも感じたよ」
「言われてみれば……」
俺といる時の綾奈は、いつもにこにこしていた。
それだけじゃなく、綾奈は自分から俺との距離を無くしてくる。
俺とずっと触れ合っていたい……綾奈はいつも、行動や表情でそれを表現してくれていた。
あれは俺に、俺だけに見せてくれる特別な綾奈だ。
「彼氏……いや、旦那失格だな」
俺はいつぞや阿島に言ったな。『綾奈の俺から離れないって言葉に俺は全幅の信頼を捧げてる』って……。
こんなことで綾奈への信頼が揺らぐとか、ダサすぎだろ……俺。
「今まで綾奈さんが、他の男の人と二人きりで歩いてるのを見るのは初めてなんだよね? だったらショックを受けるのも仕方ないよ」
「ありがとう茉子。でも、やっぱり綾奈を信じきれなかった俺が悪いよ」
先輩とクラスメイト、そして妹分が、俺に優しい言葉をかけ、同じく眼差しを向けてくれる。
だけど、今回ばかりはそれに甘えるのはダメだ。
このクソ情けない自分をちゃんと戒めて、何があっても綾奈の気持ちを疑うことのないようにしないと。
「う~ん」
俺が心の中で猛省していると、雛先輩が唸った。
雛先輩を見ると、首を傾げ、右手の人差し指を顎に当てて、何かを考えているみたいだ。
「どうしたんですか? 雛先輩」
「う~ん……気のせいかもしれないんだけど~、あの男の人、どこかで見たような気がして~」
「マジですか!?」
あの人と面識があるのか!? 一体雛先輩とどんな関係なんだろう?
「雛さん。どこで見たか思い出せません?」
「う~ん……う~~~~~ん」
香織さんの言葉で、雛先輩は思い出そうと必死に記憶を探っているようだ。やがて───
「ごめんね~。やっぱり思い出せないわ~」
雛先輩が眉を下げて謝ってきた。
「いえ、仕方ないですよ。思い出そうとしてくれてありがとうございます。雛先輩」
「……真人君のお役にたちたかったわ~」
「その気持ちだけで十分ですよ」
それからは終始落ち着いて三人と話が出来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます