第294話 疑念再び
「真人お兄ちゃん。綾奈さんとなにかあった?」
「え?」
プレゼントをもらってから少しして、茉子が意を決したかのように口を開いた。
「その、違ってたら謝るけど、綾奈さんの名前を出したら、真人お兄ちゃんの表情や空気が変わったように感じたから……」
茉子は俺をよく見ているな。付き合いも長いから見破られて当然か。
「もしかして真人君、明日綾奈ちゃんと二人きりで過ごすのを想像してドキドキしてるとか~?」
香織さんがニヤニヤしながら言った。
そうだったらどんなに良かったか……。
ここで俺が香織さんに肯定しても、茉子にはすぐに見破られてしまうと思った俺は、顔を下げてゆっくりと首を横に振った。
「そうだったら、良かったんだけどね……」
俺は眉尻を下げて、力なく笑った。
「西連寺さんと、なにかあったの?」
雛先輩、真面目に聞いてきている。これは本気で心配してくれているな。
ここまで話して、打ち明けないってのは三人も納得しないだろうな。
「実は───」
俺は、三日前から綾奈の行動がおかしいこと、昨日ショッピングモールで綾奈と麻里姉ぇと一緒に見知らぬイケメンが一緒にいたことを三人に話した。
「もちろん綾奈が浮気しているとは思ってない。でも、ここ数日の微妙に俺を避ける行動、指輪を外して出掛けること、そしてあの男の人が頭に浮かんでずっとモヤモヤしてるんだよ」
昨日も別にその男の人と二人きりで歩いていたわけではないのに、指輪を外したのもなにか理由があるからってわかってるのに……どうしてもネガティブな方に考えてしまう。
「綾奈ちゃんは、明日が真人君の誕生日って知ってるんだよね? それで色々隠れて行動していて、男の人といたのはそれが関係してるとかじゃないの?」
「……わからない」
「わからないって……真人君、綾奈ちゃんを疑ってるの?」
「さっきも言ったけど、浮気は疑ってない。俺がわからないって言ったのは、綾奈は俺の誕生日を知らないかもしれないから、綾奈の行動の理由がわからないって意味だよ」
「「「は?」」」
俺の言葉に、三人は驚愕の事実を聞かされたような顔をしている。
「ち、ちょっと待って。綾奈ちゃんが真人君の誕生日を知らないかもって……冗談でしょ?」
「伝えてないから、知らない可能性もある」
「なんで教えてないの!?」
「言うタイミングがなかったのと、直前に言うとプレゼントをせびっているように思われるかもしれないからさ……」
今更だけど、もし本当に綾奈が俺の誕生日を知らなくて、そのまま『おめでとう』もなく過ぎてしまったら……数日前までは仕方ないって思ってたけど、やっぱり精神的にこたえるな。完全に俺の自業自得だけどさ。
「真人君……」
「そうね~。確かにイケメンだわ~」
「「え?」」
俺と香織さんが言い合っていると、横から雛先輩の声が聞こえた。
雛先輩は、なぜか外の方を向いている。イケメンがいたのか?
「あれは……」
俺も窓から外を見ると、そこには、今まさにこのファミレスを通り過ぎようとしている綾奈の姿があった。
昨日ショッピングモールで見かけた男の人も一緒にいて、二人で駅とは反対方向に歩いていた。
「綾奈……なんで……っ!」
なんで、俺の知らない男と二人で一緒に歩いてんだよ?
しかも今日は麻里姉ぇがいないから完全に二人きりだ。
綾奈が浮気とかありえない……そう思っていたのに、それが今、まさに揺らいでいた。
男と会うにしても、綾奈にその気がなければ指輪を外して会わないはずだ。
密着しているわけではなく、お互いの距離が少しだけ開けているけど、すごく仲がいいように見える。
まるで、ずっと昔からお互いを知っているみたいに……。
健太郎……本当にあの二人の間には何もないのか?
「うわ、本当にイケメンだ」
「ですね。かっこいいと思います」
雛先輩に続き、香織さんと茉子も口を揃えてイケメンと言っている。
ちょっとチャラそうだけど、やっぱりイケメンには違いない。同性の俺から見てもかっこいいし。
「でも」
「はい」
「そうね~」
「え?」
二人の様子を見て、三人は何かを理解したように頷いている。やっぱり付き合っているとでも言いたいのか?
「真人君。あの二人は───」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます