第293話 香織のお願いと3人からのプレゼント
「あ、中筋君。私から一つお願いがあるんだけど」
それから少し世間話をして場が和んだ時、北内さんが手を挙げて言った。
「お願い?」
「うん。私のこと、出来たら名前で呼んでほしい」
「名前で?」
「そう。だって中筋君……私だけ苗字で呼んでるから……」
「……あ」
北内さんに言われて初めて気がついた。
確かに、北内さん以外の仲のいい異性は、みんな名前で呼んでる。
こうなると北内さんだけに壁を作ってるみたいになるな。
「その、気づかなくてごめん。……じゃあ、えっと……香織さん」
「っ! う、うん。これからはそれでよろしくね。……ま、真人、君」
「……へ?」
北内さん……じゃない。香織さんも俺を名前で呼んだ!?
びっくりしたけど、この流れだと、まぁ自然な方か。
「相手に呼ばせて自分だけ呼ばないのは、なんか……アレじゃん!」
「そう、だね」
すごい抽象的に言われたけど、香織さんが言わんとしてることは理解出来た。
「だ、だから……私もこれから名前で呼ぶからね。真人君」
「わかったよ。香織さん」
「私も名前で呼ぶわね~。真人君」
雛先輩が流れに乗じて俺を名前で呼んできた。
「雛先輩まで」
「うふふ~。男性を名前で呼ぶのは健ちゃん以外だと初めてだから、やっぱりドキドキするわ~」
「全くそんな風には見えないんですけど……」
昨日、電話で話している時の方がよっぽどドキドキしていると感じたんだけど。
まぁでも特に反対する理由もないし、俺自身、苗字より名前で呼ばれる方が好きだから、雛先輩の好きに呼ばせることにしよう。
「……わかりました。これからもよろしくです。雛先輩」
「ええ~。よろしくね真人君~」
「今更だけど、綾奈ちゃん……私と雛さんが真人君呼びにして、怒らないよね?」
「……綾奈はそんな事では怒らないから大丈夫だよ」
綾奈の名前が出て、またモヤモヤしてしまう俺。
何もないってわかってるのに……なんでこんなに嫌な気持ちになるんだよ。
今はみんながいるんだ。そんなネガティブな考えは今すぐやめないと。
「?」
俺の様子を茉子が不思議そうに見ていたのだが、ネガティブ思考に囚われていた俺は、茉子の視線に気づかなかった。
「じゃあ~、無事に名前呼びにできたところで~、プレゼントを渡しましょ~」
雛先輩が今日ここに来た本題をついに切り出した。
三人は一体、どんなプレゼントを選んでくれたのかすごく気になる。
「はい。マコちゃん、持ってきてくれた?」
「もちろんです」
そう言うと、茉子はバッグに手を入れてゴソゴソとしている。
どうやら一人一人がプレゼントを用意したわけじゃなく、三人でお金を出し合って買ったみたいだな。
本当……ありがたいなぁ。
「あ、あった。……んしょっと。はい、真人お兄ちゃん。これが私たちからの誕生日プレゼントだよ」
茉子がバッグから取り出したのは、綺麗に包装された長方形のあまり大きくない箱状の物だった。
中には一体何が入っているんだろう?
「三人とも、ありがとう。開けてもいい?」
「もちろん。どうぞ真人君」
香織さんが言い、茉子と雛先輩もそれに頷いた。
俺は包装紙を丁寧に剥がしていった。
「うわぁ……」
包装紙の中には、透明なプラスチックケースに入ったマリンブルーのブックカバーがあった。
プラスチックケースから出し、ブックカバーに触れる。
「手触り、めっちゃ良い……」
これはラノベを気持ちよく読めそうだ。
「気に入ってくれたかしら~?」
「はい。それはもう……本当にありがとうございます」
帰ったら早速、今読んでいるラノベに付けよう。
「良かったわ~。実は、ブックカバーにしようって言ったのはマコちゃんなのよ~」
「そうなんですか?」
俺は茉子を見ると、茉子は頬を赤くして俯いていた。
「その、真人お兄ちゃんが使っているブックカバーが、けっこう使い古されているなって思ったから……」
俺の使っているブックカバーを見る機会なんてほとんどないはずなのに、茉子はそれを覚えていたのか……。
「ありがとうな。茉子」
「うん。真人お兄ちゃんが喜んでくれて私も嬉しい」
茉子は頬を赤らめたまま、満面の笑みを見せてくれた。
「真人君。中を開いてみて」
「中?」
香織さんに言われた通りに、ブックカバーを開いた。
「これは……」
すると、栞を入れるところに、四つ葉のクローバーを模した栞がはさんであった。
「その栞は、雛さんが選んだんだよ」
「雛先輩が?」
俺は雛先輩を見る。
「そうなの~。真人君の幸福と、西連寺さんとずっと仲良くしてほしいという願いを込めて、この栞にしたの~」
「綾奈……」
綾奈の名前が出てきて、俺は俯き顔をしかめる。
だから、あの人とはなんでもないって健太郎も言ってたじゃないか! 疑うのは間違ってる……綾奈を、信じるんだ。
俺は一度深呼吸をして顔を上げた。
「三人とも、本当にありがとう。大切に使うよ」
俺は笑顔をはりつけ、三人にお礼を言った。
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