第292話 雛の突然の告白

 それから駅に到着した俺と茉子は、北内さんと雛先輩と合流して、駅から近いファミレスに入り、奥の方の席に座った。

 ここは去年の二学期の始業式のあと、綾奈から放課後一緒に下校してほしいと頼まれた場所だ。俺にとって忘れることの出来ない思い出だから鮮明に覚えている。

 ……綾奈、今頃何してるんだろう?

 しかし、ファミレスに来たけど当然お昼ご飯は食べてきているのでお腹はすいていない。

 だけど、ファミレスに来て何も注文しないで居座るのはさすがにまずいので、俺たちはそれぞれドリンクバーと、大盛りのフライドポテトを注文した。

 俺は綾奈を思い、少し陰鬱な気持ちになりながらも、雛先輩と一緒に、茉子と北内さんの飲み物も取り席に戻ると、雛先輩が早速今日集まった要件を話だした。

「早速なんだけど~、中筋君って、明日誕生日なのよね~?」

「はい。そうです。健太郎から聞きました?」

 健太郎と一哉と茜には昨日祝ってもらったから、当然ながら健太郎は俺の誕生日を知っている。

 雛先輩が俺の誕生日を健太郎から聞いたとなると納得なのだが……。

「健ちゃんからは聞いてないわよ~。私たちはマコちゃんから聞いたの~」

「あ、なるほど」

 茉子も俺の誕生日は知っている。美奈と仲良くなってからは毎年祝ってくれるんだよな。

「そうそう。マコちゃんが言ってくれなかったら、危うく中筋君の誕生日をスルーしちゃうところだったよ」

「別にスルーしても良かったのに……」

 知らないなら知らないで別に気にしないから。

「それは無理だよ真人お兄ちゃん。真人お兄ちゃんは私たちにとって大事な人だもん。その大事な人の誕生日を祝わないのはありえないよ」

「茉子……北内さんも、ありがとう」

 茉子も北内さんも、気持ちには応えられないのに、それでもまだ俺を大事な人って言ってくれる。ありがたいけど、やっぱりちょっと申し訳ないな。

 ……あれ? だとしたら、なんでここに雛先輩がいるんだ?

「あの、雛先輩?」

「何かしら~?」

「その……すごく聞きづらいんですけど、雛先輩が北内さんと茉子と一緒にこの場にいるのって、もしかして……」

 自分で言っててありえないと思う。雛先輩ほどの美人が俺に好意を持ってるわけないだろ。きっと茉子達の付き添いかなんかだ。

「そうよ~。私も香織ちゃん達と同じ……中筋君は私のとっても大事な……好きな人よ~」

「っ!?」

 ま、マジかよ……。雛先輩が俺を好き!? 俺は綾奈と結婚の約束をしていて、付き合うことが出来ないのを知ってるのに……。

 俺は雛先輩の突然の告白に、顔が一気に熱くなり、思考もまとまらない状態になる。

「いや雛さん。いきなり公開告白しなくても……」

「そ、そうですよ。真人お兄ちゃん、すごく混乱してます」

「でも~、気持ちを伝えるなら今しかないって思ったの~」

 雛先輩のマイペース……たまに怖い時がある。

 いや、それよりも。

「ひ、雛先輩。いつから俺を……?」

 そこがわからない。雛先輩が俺を好きになるきっかけなんてあったか? 思い返してみてもマジで検討がつかない。

「そうね~。最初は健ちゃんを変えてくれた恩人だったんだけど~、はっきりと好きって思ったのは、中筋君が私を家まで送ってくれた時だわ~」

「あ、あの時ですか……」

 あの日、雛先輩は期末テスト前で勉強していた俺を見てくれて帰りが遅くなってしまって、雛先輩一人で暗い夜道を歩かせるわけにはいかないと思って、ただそれだけの理由で家まで送っただけだ。

 それなのに雛先輩は、それがきっかけで俺を好きになった……?

「そうよ~。あの時、百パーセント善意で送ってくれた中筋君を見て、胸が高鳴ったのと同時に、西連寺さんが羨ましくなっちゃったの~」

「そう、だったんですね。……でも、俺は……」

「わかってるわ~。私も二人と同じで西連寺さんからあなたを奪うつもりは全くないわ~」

「え?」

「中筋君と西連寺さんは本当にお似合いよ~。そんな二人を見るのがもっと好きなの~」

「雛先輩……」

「だから、あなたに恋したままでいさせてほしいの」

 雛先輩が真面目モードになっている。それだけ本気ってことか。

「俺は雛先輩の気持ちに応えることは出来ません。雛先輩に辛い思いをさせるかもしれない……それでも良いんですか?」

「もちろんよ。さっきも言ったけど、私は中筋君と西連寺さんのラブラブを見るのがもっと好きなの。告白したのは完全に私のエゴ。だから中筋君は私……ううん。私たちに気を使わずにこれからも西連寺さんと愛を育んでちょうだい」

「雛さんの言う通りだよ」

 今度は北内さんが口を開いた。

「北内さん」

「私たち三人は身を引いているんだから。そんな私たちに遠慮して綾奈ちゃんとイチャイチャするのを遠慮したら、私たちは中筋君を嫌いになるよ」

「そうだよ真人お兄ちゃん。私たちは、真人お兄ちゃんと綾奈さんの幸せを心から願ってるの。お兄ちゃんは優しいから、きっと私たちを気にしちゃう……。けど、そんな気遣いは不要だよ」

「ま、茉子」

「だから~、私達を思うなら、遠慮なく西連寺さんとイチャイチャしてほしいわ~」

「みんな……」

 そうだな。ここで俺が綾奈とイチャイチャするのを躊躇ってしまっては、この三人に失礼だ。

 何より、俺のお嫁さんを名乗ってくれている綾奈に申し訳が立たない。

「わかった。その、三人とも……ありがとう」

 俺は改めて三人にお礼を言った。

 俺を好きになってくれたこと……そして、俺が綾奈と気兼ねなく付き合っていけるように、わざと厳しい言葉を言ってくれたことに……。

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