第288話 見知らぬ男の存在

 俺が頭を悩ませていると、少し離れたところにある雑貨屋から知った顔が出てきた。

 いや、正確には距離があって肉眼でははっきりとは分からなかったけど、あの雰囲気は間違いない。

 その雑貨屋は、茜が一哉の誕生日プレゼントを買いに行くために引っ張りだされたり、綾奈にあげた指輪を買ったりと、最近よくお世話になっている雑貨屋だった。

「あれは……」

「真人、お待たせ」

 それと同時に、トイレに行っていた一哉と茜が戻ってきた。健太郎はいない。

 だが、俺はその見知った顔に釘付けとなり、みんなには何も言えなかった。

「ん? 何見てるんだ?」

「あれは……綾奈ちゃん?」

 俺の態度を不思議に思った一哉と茜が俺の見ているお店を見た。

 茜が言ったように、そのお店から出てきたのは綾奈だった。

 綾奈は雑貨屋で買ったであろう小さな紙袋を大事そうに抱えていた。

 それからすぐに、別の人も雑貨屋から出てきた。

「あれは、麻里姉ぇ…………と、誰だ?」

 一人は綾奈の姉で、俺の義理の姉になる麻里姉ぇ。

 そしてもう一人は、見たことがない男の人だった。

 髪は明るいベージュ色で清潔感がありそうな短髪。身長は俺と同じか少し高いくらいだろうか? スラッとした細身で、距離があるからどんな顔かはわからないけど、多分俺たちより年上で、イケメンだと思う。

 綾奈、あんな知り合いいたんだ……。

「なっ!?」

 その男は、綾奈の肩にそっと手を置き、何かを綾奈に語りかけているように見える。

 そして、肩に手を置かれた綾奈は、それを嫌がる素振りは微塵も見せていないみたいだ。

 俺は男と綾奈の行動に驚きを隠せなかった。

 麻里姉ぇも、男の行動を止めようとしないところを見ると、以前から親交がある人なのかもしれない。

「お、おい真人! あれ、誰だよ!?」

「そ、そうだよ。真人以外の男の人にあんなことされて嫌がる素振りも見せない綾奈ちゃん見たことないよ!」

 一哉と茜も知らないらしく、俺に小声で詰め寄ってきた。

「いや、……俺も知らない」

 俺は力なくそう返すのが精一杯だった。

「みんなお待たせー……って、何見てるの?」

 俺たちが混乱していると、健太郎が遅れて帰ってきた。

 俺たちが見ている方を健太郎も見た。きっと健太郎もびっくりするだろうな。

「あー……なるほどね」

 だけど、健太郎のリアクションは薄かった。

 あの綾奈を見てそれだけ!? 俺はそんな眼差しで健太郎を見た。

「もしかしてだけど、三人とも、西蓮寺さんがあの人と浮気してるって思ってる?」

「いや、それは……」

 俺はそこから言葉を続けることが出来なかった。少しでも疑ってしまうなんて、綾奈の旦那として不甲斐ない……。

「てかお前、あの男のこと知ってるのか!?」

「健太郎君。知ってたら教えてよ!」

 俺が答えない代わりに、一哉と茜が健太郎に詰め寄った。二人とも必死な形相だ。

「うん。結論を言えば、西蓮寺さんがあの人と浮気をしているのは百パーセントないよ」

「そ、そうなのか!?」

 俺はバッと顔を上げ、健太郎に聞き返す。

「うん。誓って本当だよ。あの人は絶対に西蓮寺さんには手を出さない……ううん、出せない。万が一手を出そうものなら、色んな人から半殺しにあうだろうしね」

 健太郎の口から物騒な単語が聞こえてきた。

 それをにっこりと笑いながら言う健太郎に、それも嘘ではないんだろうなと信じさせられる何かを感じた。

「じゃあ一体誰なんだよ? 松木先生も何も言わないって、あの二人と親交が深いのかよ?」

「うん。深いと思う」

「健太郎君。勿体つけずに教えてよ!」

 俺も知りたい。健太郎がここまで自信をもって言えるということは、健太郎はあの人をけっこう詳しく知っていると言っているようなものだ。一体どこであの人と知り合ったのか。

「それはすぐにわかると思うよ。だから僕の口からは言わない。でも真人、重ねてになるけど、あの人と西蓮寺さんは、真人が想像しているような関係じゃないから。そこだけは信じてあげて」

「……わかった」

 正直今すぐにでもあの人の正体を教えてほしいところだが、健太郎がそこまで言うんだ……あの人は信じられる人なんだろう。

「健太郎……お前、だんだん宮原さんに似てきたな」

 一哉の一言に妙に納得して、俺はさっきの綾奈の件はあまり気にしないようにして、三人と移動を開始した。

 その後、俺たちは本屋に行き、二日早い誕生日プレゼントと称して、三人から俺が欲しかったラノベを三冊プレゼントしてくれた。

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