第285話 ブックカバーと栞
三人はそれからも、ショッピングモール内にあるテナントを色々見て回ったが、これといった品は見つからずに、現在は書店に来ていた。
「さすがに本屋にはプレゼント出来るものはありそうにないかな?」
「あ、でも……」
「マコちゃん。どうしたの~?」
「真人お兄ちゃんってライトノベルをよく読むんですけど、少し前に家に行ったとき、そのカバーが古くなっていたのが気になったんです」
「……そういえばそうかも。中筋君の使ってるカバー、高校入学当初から少し傷んでるなって思ってた。それに今もそのカバーを使ってたら年季が入ってるに違いないよね」
「二人とも、中筋君をよく見てるのね~。なら、中筋君に似合いそうなブックカバーを探しましょうか~」
「そうですね。カバー売り場に行きましょう」
「れっつご~」
こうして三人は、ブックカバーコーナーを目指して歩き出した。
お目当てのコーナーに着いた三人。そこには様々な色、そして材質のブックカバーが陳列されていて、読書が趣味の人なら目移りしてしまいそうな場所であった。
「すごいね。こんなにいっぱいあるんだ」
「これだけあると、どれがいいのわからなくなるわね~」
「う~ん……」
香織と雛が様々な種類のブックカバーに目を白黒させている中、茉子は一つのブックカバーを手に取った。
それは見本で置かれた、色は落ち着いたマリンブルーで、革製のブックカバーだった。
「これ……」
「あ、いい手触り」
「それに色も綺麗ね~。中筋君に合いそうね~」
「はい。真人お兄ちゃんは黒が好きなんですけど、あえてそこを外してみてもいいかなって思ったんですけど……」
「いいと思う。さすがマコちゃん。伊達にちょくちょく中筋君の家に遊びに行ってるわけじゃないね」
「でも、私が真人お兄ちゃんの部屋に入ったのは二学期の期末テスト前が初めてでしたから。その時勉強机に置かれていたブックカバーも見て、だいぶ使い込まれてるなって思ったんです」
「じゃあ~、これにしちゃう~?」
「はい。あ、良かったら栞も買いませんか?」
「でもこのブックカバー、ページに挟める紐みたいなの付いてるよ?」
「このブックカバー、栞を入れるポケットみたいなのが付いてるわね~」
「本当だ。じゃあ栞買って、それをこのポケットに入れてラッピングしてもらう?」
「はい。そうしましょう」
そうして三人は、四つ葉のクローバーをモチーフにした栞を一緒にレジに持っていき、ラッピングを施してもらった。
「雛先輩。どうして四つ葉のクローバーの栞にしたんですか?」
四つ葉のクローバーの栞を選んだのは雛だ。
雛は何故かその栞を見つけると、すぐに手に取り、これがいいと理由を述べずにゴリ押ししていた。
香織も茉子も特に反対はしなかったのだが、どうしても理由が気になっていた香織が雛に聞いた。
「……中筋君がこれから先、幸せでありますように。西蓮寺さんとずっと仲良くやっていけますようにって願いを込めて、この栞を選んだのよ」
「「…………」」
いつものおっとりトーンではない、真面目な雛の口調と、選んだ理由がガチだったため、香織と茉子はただただ驚いていた。
「ありえない話だけど、もしも中筋君と西蓮寺さんが何かの拍子に別れちゃうの、私は絶対に見たくないし、それに、二人がもしそうなったら、北内さんとマコちゃんと中筋君を取り合うことになるのも嫌なの。せっかく仲良くなれたんだから、二人とは恋のライバルではなく、お友達としてこれからもいたいから」
二人に笑顔を向ける雛。
「雛先輩……」
「雛さん……」
雛の本心に二の句が告げない香織と茉子。
少しして、香織が口を開いた。
「そうですね。同じ人を好きになったっていう奇妙な関係ですけど、私も二人との友情を大事にしたいです」
「わ、私も香織さんと同じです!」
「ありがとう二人とも~。じゃあ~……」
そう言って二人に手のひらを出す雛。
「これからも仲良くしましょうね~。香織ちゃん、マコちゃん」
「っ! はい。もちろんです雛さん」
「香織さん、雛さん。これからもよろしくお願いします」
香織と茉子は、それぞれ雛の手に触れ、三人同時に手を握りあった。
こうして、この三人の友情はさらに強固なものとなった。
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