第284話 香織は名前で呼ばれたい
暗い空気になっていると感じた香織は、とっさに違う話題を切り出した。
「まぁ、過ぎたことなんでもういいんですけど。それより私は二人が羨ましいんです」
「どうしたの~北内さん?」
「羨ましいって、何がですか?」
「二人とも中筋君に名前で呼ばれてるじゃないですか。私だけ苗字……」
「そうですね。確かに香織さんだけ、ですね」
「そうね~。初詣に集まったメンバーで、唯一北内さんだけは苗字で呼ばれてたわね~」
「……雛先輩。もしかして傷口に塩を塗ってますか?」
香織は雛をジト目で見る。この時に関しては、先輩後輩は関係ないようだ。
「そんなつもりはなかったんだけど……ごめんね北内さん」
そんな雛は、眉を下げて香織に謝罪をした。
「いえ、私も謝ってもらうつもりで言ったわけじゃありませんから」
それから雛は、何か名案を思いついたのか、笑顔になり手をパンと合わせた。
「そうだわ~。北内さんも名前で呼んでもらうように中筋君にお願いしてみたらどうかしら~?」
「え?」
「中筋君なら絶対オッケーしてくれるはずよ~」
「私もそう思いますけど……綾奈ちゃんが許してくれるかどうか……」
「……綾奈さんなら許してくれると思います」
「私もそう思ってるけど、もしもを考えちゃうとね」
「綾奈さんと香織さんはお友達なんですよね? もし綾奈さんがまだ香織さんを、真人お兄ちゃんを狙うライバルだと思っていたら、綾奈さんは友達にはなっていないと思います。香織さんを信頼しているはずだから、きっと綾奈さんは許してくれますよ」
「マコちゃん。……うん、そうだね。プレゼントを渡す時に中筋君に頼んでみるよ。ありがとうマコちゃん」
「それなら~、私たちも中筋君を苗字で呼ぶのをやめないといけないわね~」
「そうですね。……まさと、くん。……うぅ、やっぱりちょっと緊張しちゃうなぁ」
「そうね~。健ちゃん以外の男の子を名前で呼んだことないからドキドキするわ~」
「雛先輩は全然そんな風には見えないんですが……」
「そんなことないわよ~。 なんならちょっと確かめてみる~?」
雛は香織の右の手首を掴んだ。
「え?」
雛が何をするつもりかわからない香織。
そして雛はゆっくりと香織の手のひらを自分の左胸に押し当てた。
「ちょっ、雛先輩!?」
香織の手のひらが雛の大きな胸に沈み込む。
雛の突然の行動に驚きながらも、香織は手を離そうとはしなかった。
「ね? ドキドキしてるでしょ~?」
「……大きい」
「はわわ……」
雛の鼓動の速さも感じていた雛だったが、それよりも胸の大きさの方がインパクトがあった。
そんなやり取りを見ていた茉子は、顔を赤くしながらも目を離すことはしなかった。
「雛先輩。それ、サイズいくつなんですか?」
「ん~、以前はFだったんだけど~、最近ブラが少しキツくなってきちゃって、ちょっと大きくなったみたいなの~」
「まだ育ってるんですか!?」
「そうみたいなの~。多分今は千佳ちゃんより大きいと思うわ~」
「はわわ……」
「それはそうと~、中筋君を名前で呼ぶように頑張りましょ~北内さん」
「そ、そうですね」
そう言うと、雛は二人に背を向けて歩き出した。
「雛先輩のマイペース……時々怖い」
「……ですね」
二人も雛の背中を追いかけて歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます