第282話 もうすぐ真人の誕生日
その後も俺と綾奈の話で盛り上がり、いつの間にか外が暗くなり始めていた。
スマホで時刻を確認すると、午後五時になろうとしていた。
あと一時間もしないうちに、外は真っ暗になってしまうな。
「いい時間だし、そろそろ帰ろっか」
千佳さんの一言で、みんなはそれぞれ帰り支度を始めた。
席を立ったみんなは、それぞれ自分の飲み食いしたケーキやドリンク代を支払い、店の外に出る。
「翔太さん。今日もごちそうさまでした」
俺の会計の番となり、俺は綾奈の分のお金も支払うと同時に、翔太さんにお礼を言った。ちなみに俺が綾奈の分も出すと言ったら、綾奈はそれを断固拒否し、自分の支払う金額を俺に渡してきた。
それにしても、ここのケーキは本当に美味しく、何度食べても飽きない。
「こちらこそ、頻繁に来てくれてありがとう真人君」
「また来ますね」
「またいつでも来てよ。麻里奈と一緒に待ってるからね」
「はい。じゃあ行こうか、綾奈」
俺は、二人分の会計を済ませ、綾奈の手を握ろうとした。だけど。
「ごめんね真人。ちょっとお義兄さんとお話することがあるから、先に外に出てもらえるかな?」
どうやら翔太さんに話があるらしい。俺は綾奈に従い、先に店を出た。
「あれ? 西蓮寺さんは?」
俺と一緒に綾奈が出てこないことを不思議に思った一哉が俺に聞いてきた。
千佳さんもドア越しに綾奈を見ようとしている。
「なんか翔太さんと話があるんだって」
「そっか。まぁ義理の兄妹で話すこともあるよな。それはそうと……」
どうやら一哉は言いたいことがあるらしく、自分で聞いてきた話題をあっさりと終わらせた。
「なんだよ?」
「いや、お前もうすぐ誕生日だと思ってな」
「え? 真人、誕生日近いの!?」
そっか、もうそんな時期か。
去年までは家族と一哉、そして茉子くらいしか祝ってくれる人がいなかったから、特に意識してなかったから、一哉に言われるまで失念してた。
「うん」
「そういうことは先に言いなって! 何日なん?」
「一月七日だよ」
「ホントにもうすぐじゃん! え? 綾奈は知ってんの?」
そういやどうなんだろ? 綾奈とは誕生日の話はしたことがなかったな。
「……どうなんだろ?」
「どうなんだろって……あんたたち、お互いの誕生日の話したことないの?」
「……うん」
少し記憶を辿ってみたけど、確かに誕生日の話題を出したことはなかったかも。
「じゃあ、真人も綾奈の誕生日知らないってこと?」
「綾奈の誕生日は一月二十一日でしょ?」
「なんで即答出来んの!? 怖っ!」
「あー……その、中学の時、千佳さんと綾奈の話が聞こえてきて……」
去年の三学期の始めの方に、綾奈の誕生日の話題をしていたのを自分の席から聞こえてきた(聞いていたともいう)ので、その時から綾奈の誕生日は、俺の脳にしっかりと刻まれていた。
「あんたらは本当に、当時からお互い好きすぎるというか……。てか、二人って意外と誕生日近いんだね」
俺と綾奈の誕生日は二週間しか離れていない。
大袈裟だけど、誕生日が近いのも、なんだか運命的なものを感じてしまう。
「てか真人。あんた綾奈に自分の誕生日教えないと」
「ん~そうなんだけど、直前に言うとプレゼントをせがんでいるようで言い出しにくいんだよね」
これが付き合ったばかりの時期なら変わってくるんだろうけど、誕生日五日前に言ったら、プレゼント用意しよろ? とちょっと圧力をかけてしまいそうで、どうにも言いにくいんだよな。
「それはわかるけど……でも、綾奈も旦那の誕生日を知らずに当日を迎えるのは辛いと思うよ?」
それもわかる。わかるけど……ん~!
「まあまあ宮原さん。ちょっと落ち着きなよ」
俺が腕を組んで心の中で唸っていると、一哉が千佳さんをなだめ始めた。
なんだ? 助け舟でも出してくれるのか?
「なに山根? あんたも真人と同じ考えなの?」
千佳さんは軽く一哉を睨んだ。怖い。
「別にこいつの肩を持つつもりはないよ。ただ……」
「ただ、何さ?」
「真人検定皆伝の西蓮寺さんが、本当に真人の誕生日を知らないのかなって思ってさ」
……なんだよ俺検定って? 誰が受験するんだよ?
「それは……」
え? 今の一哉の説明でなんでちょっと納得してんの千佳さん!?
「西蓮寺さんもこいつみたいに、中三の時に真人の誕生日を聞いていたり、どこかから真人の誕生日の情報をもらってる可能性だってあるだろ? 茜とか、美奈ちゃんとか、美奈ちゃんの親友のマコちゃん辺りから」
「確かにあるかもだけど……」
「西蓮寺さんに言うも言わないも、真人の判断に委ねるしかないよ。だからどうするかはお前が決めろ」
「みんなお待たせ」
一哉が俺に一任した直後、綾奈が店から出てきた。
「綾奈、翔太さんと何を話してたの?」
「えへへ……ナ~イショ♡」
そう言って、綾奈は俺の腕に抱きついてきた。
俺はそれから特に追求するわけでもなく、綾奈が甘えてくる嬉しさで顔が少しだけ緩んだ。
「全く……あんたは解散したらすぐに真人に甘えてさ」
「だって、他のみんながいたから真人に甘えられなかったんだもん。旦那様にくっつきたくてうずうずしてたんだよ」
どうやら綾奈は家に帰るまで俺から離れることはなさそうだ。
一哉も千佳さんも、そんな綾奈を見て嘆息している。相変わらずだと思っていそうだ。
「じゃあ帰ろっか。一哉、千佳さん。また」
「二人ともバイバイ」
「おう。気をつけてな」
「じゃね~」
そうして、俺と綾奈は二人と別れ、俺の家に向けて歩いた。
綾奈は歩き始めると、腕に抱きつくのをやめ、代わりに俺の手をしっかりと握ってきた。
登下校で通り慣れたこの道、だけど新年で賑わい少しいつもと違う道を、俺たちはゆっくりと歩いた。
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