第279話 爆弾投下

 俺と綾奈がみんなと合流してから三十分以上はとうに経過していた。

 だけど、未だに俺と綾奈の話題で盛り上がっていた。

「綾奈ちゃんは今中筋君の家にお泊まりしてるって本当なの?」

 今度は綾奈が俺の家にお泊まりしている話題だ。

 今日のメンバーだと、そのことを知っているのは一哉と千佳さんしかいないので、恐らく二人のうちのどちらかが喋ったのだろう。

「うん。そうだよ。この冬休みが毎日とっても幸せなの」

 綾奈は屈託のない笑顔で言った。

 そう思ってくれるのは、照れくさいけどありがたかった。

 俺も綾奈と同じく、毎日が楽しくて幸せで、綾奈をお泊まりに誘って本当に正解だった。

「マジかよ中筋! お前、西蓮寺さんと同棲してんのかよ!?」

「同棲って……冬休みの間だけだぞ?」

 そもそもそれって、同棲って言えるのか?

「なんにしても、毎日西蓮寺さんを見れるってことだろ!? なんて羨ましい奴」

「付き合ってるんだから別にいいだろ?」

 彼氏彼女……いや、婚約関係にあるんだから、それは当然の権利と言える。

「だとしても、毎日西蓮寺さんと同じベッドで寝てるとか羨ましいしすぎるだろ!」

「いやいや、同じベッドで寝てるわけないだろ?」

 それをしたのは最初の一晩だけだ。

 そもそも一緒に寝るつもりじゃなかったのに、朝目が覚めると、綾奈が俺の腕枕で幸せそうに寝ていてマジで驚いた。

 てか、家族が近くで寝ているんだから、それは許されることじゃないだろ。間違いが起きたらどうするんだ。

「そ、そうだよ。一緒のベッドで寝たのは最初の一晩だけだよ!」

 綾奈がまた口を滑らせた。なぜ毎回弁明をしようとして自爆してしまうのか……。

「やっぱり寝てるじゃないか!」

 自爆した結果、元クラスメイトに引火しました。

「いや、それだって俺は自分の部屋で普通に寝てたのに、朝起きたら綾奈が俺のベッドに潜り込んでたんだよ」

「なん……だと……?」

「西蓮寺さんが……自らお前のベッドに……?」

「西蓮寺さんが……夜這い?」

 周りを見ると、驚いていたり、顔を赤くしたり、何故かショックな表情をしている男子がいる。

 清純派な綾奈のイメージが崩れたと思ったからか? 崩れてはないんだがなぁ。

 女子は女子で、ショックを受けた人はいないけど、やっぱり驚いたり赤面してる人はいる。

「別にそんなに驚くことかな?」

 そんな中、野球部トリオの最後の一人、ぽっちゃり担当でキャッチャーの沢津樹が言った。

「そりゃあ、二人が付き合ってるって知った時は驚いたけど、クリスマスイブに見た二人は本当にラブラブだったし、これまでの話を聞いてると、西蓮寺さんがそういう行動に出るのもわかると思うよ。それに───」

 樹いいこと言うな。……そう思ったのは一瞬だった。なぜなら……。


「───二人は既に恋人や夫婦がする行為を最後までシテるんだからな」


 樹が今日一番の爆弾を落としやがったからだ。

「はぁ!?」

「ふえぇ!?」

「「えええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」

 野球部トリオ以外全員の声が店内に木霊した。なんで一哉と千佳さんまで驚いてんだ?

店内にいたスタッフさんや他のお客さん……すみません。

「あー確かに。そういやそうだったな」

「真人と西蓮寺さんが付き合っているって事実で忘れてたわ。お前よく覚えてたな樹」

「真人、やっぱりお前……」

「へぇ~、年明け直後の山根のあのメッセージはあながち間違ってなかったね~」

「ま、待てお前ら! 何の話をしているんだよ!?」

 この野球バカ三人。何を呑気に喋ってるんだ!? 自分等の落とした爆弾が核爆弾クラスの規模だって理解していないのか!?

 一哉と千佳さんも、本当はわかってるくせに、悪ノリをしてやがる。

 そもそも、俺たちは最後までシテいない! 全くの事実無根だ。

「そ、そうだよ! 私たちは…………あうぅ~」

 綾奈も否定しようとしたみたいだけど、途中から恥ずかしくなってしまったのか、耳まで真っ赤にして俯いてしまった。

「マジで!? 綾奈ちゃん、中筋君と最後までシタの!?」

「へ~奥手かと思ったら、中筋君って以外と手が早いんだね」

「綾奈ちゃん。やっぱり最初は痛かった?」

 女子はテンションが上がったみたいで、綾奈にグイグイと迫るように聞いている。

というか、興味があるのはわかるが、こんな場所でする話ではないだろ。

「ま、ましゃとぉ……」

 耐えられなくなった綾奈は、耳まで真っ赤にしたまま、目に涙をためて俺の服の袖を掴んできた。

 というか昨日も思ったけど、そっち系の話で限界まで照れると、綾奈は俺の名を呼ぶときは舌足らずになるのな。可愛すぎだよ。

 それよりも、ここは俺がどうにかするしかないようだ。

「ま、待てみんな。ちょっと落ち着い───」

 みんなをなだめようと、痛む腰を無視して立ち上がろうとしたら、突然後ろから誰かに肩を持たれた。


「ずいぶん面白そうな話をしてるわね。私にも聞かせてほしいわ」

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