第278話 メッセージアプリの綾奈のアイコン

「そういや綾奈。あんた何でメッセージアプリの自分のアイコンを野菜炒めにしてんの?」

「え?」

 野菜炒めって、もしかして昨日、俺が綾奈の家で作ったやつか?

 アレを綾奈がアイコンにしている? マジで!?

 俺はポケットからスマホを取り出してメッセージアプリを起動。綾奈とのトークを表示させた。ホーム画面で綾奈を探すより、こっちの方が早いからだ。

 すると、本当に綾奈は昨日俺が作った野菜炒めをアイコンにしていた。

 そのアイコンを眺めて、綾奈の想いを知って、自然と口角が上がった俺は、右手の甲で口元を隠した。

「ん? なんで真人が照れてんだよ?」

 野球部トリオのフツメン担当、ポジションセカンドの政枝光輝が言った。

「あぁ、そういう事か」

「なるほどねぇ」

「なんだよ。なに二人して納得してるんだよ一哉。宮原さんも」

 さすが俺たちの親友。どうやら一哉と千佳さんは察したようだ。

 だが、一哉が何に納得したのかわかっていない光輝は首を傾げている。

 他のみんなも、なぜ綾奈のアイコンが野菜炒めなのかわかっておらず、各々予想を立てているが、どれもハズレだ。

 そんなみんなの疑問に、綾奈自らが答えを言った。

「えっと、この野菜炒めはね、昨日私の家で真人が作ってくれたの」

「え、マジで!? 真人お前、料理出来たのかよ?」

 野球部トリオのイケメン担当、強肩でポジションセンターの本郷啓太が驚いていた。

 他のみんなも驚いている。まぁ、俺が料理出来るってイメージはないだろうな。

「うん。昨日、綾奈のお母さんの明奈さんからのリクエストでな。それで野菜炒めを作ったんだよ」

「私もその野菜炒めを食べた時、美味しいけどお母さんの味付けと違うなって思って、それで聞いたら、真人が作ったって言ってね。初めて食べた真人の手料理だったから思わず写真に撮っちゃった」

「でもまさかアイコンにしてるとは思わなかった」

「どうにかスマホで表示させたいなって思って……でもロック画面も壁紙もすごく大切な写真にしてるしって考えて、アプリのプロフィールアイコンにしたの」

「ホントに嬉しいよ。ありがとう綾奈」

「えへへ♡」

 俺は綾奈の頭に手を置き優しく撫でた。

 綾奈も目を細めてされるがままになっている。

 これが家だったら、間違いなくキスをしている。

 ……ん? 家だったら?

 俺が気づいた頃には既に遅く、周りを見ると一哉と千佳さんは呆れていて、他の元クラスメイト達はぽかんとしていた。

 うわぁ~、やっちゃったよ。

「お前ら、そういうのは帰ってからやれよ」

「ほんとだよまったく。あたしらはいいけど、他のみんなは慣れてないからフリーズしてんだからね?」

「「……すみません」」

「でも、アレだね」

 俺と綾奈がやらかしてしゅんとしていると、一人の女子が言った。

「アレってなに?」

「中筋君って、予想以上に好物件だったのかもって」

 いやいや、俺なんて普通の陰キャオタクですよ? 好物件なわけないじゃん。

「え~そう?」

 そうそう。あの女子が過大評価してるだけだからね。

「考えてもみなって。以前は太っていたけど、今は痩せたし、彼女一筋の優しい彼氏で、オマケに料理が出来る」

「それに真人は気配りも出来るんだよ。この前真人の家に行った時、真人の妹ちゃんの部屋で綾奈と三人で喋っていたら、あたしらは何も言ってないのに真人が人数分の飲み物を用意してくれたし、あたしがポテチの袋を開けようとしたのを見て、大皿まで持ってきてくれたし」

 千佳さん。なんでアシストしてんの?

「それだけじゃなく真人は困っている人がいたら率先して手を伸ばしてるし、教室に落ちているゴミなんかも拾ってゴミ箱に入れてるしな」

 一哉まで珍しくアシストした!? なんだ? 後が怖いんだが。

「しかもその困っている人の一人が私のおばあちゃんだったんだ。だから真人はおばあちゃんとお友達なんだよ」

「まぁ、幸ばあちゃんだったのはたまたまだけどね」

 あの時歩道橋で声をかけたおばあさんが綾奈の実のおばあちゃんだったのには驚いた。

「きっと運命だったんだよ。私はおばあちゃんを手助けして歩道橋の階段を上っている真人を見て気になり始めたんだから」

「綾奈……」

「真人……」

 あの時、幸ばあちゃんに声をかけなければ、今こうして綾奈の隣には居られなかったと考えると、運命、なのかもしれないな。

「あんたたち、注意して数分でまたイチャつかないでもらえる?」

「「……ごめんなさい」」

 またやってしまった。無意識って怖い。

「……ね? 中筋君って好物件だったでしょ?」

「た、確かに」

 そう言っている二人の顔が少し引きつっているのは気のせいだよね?

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