第277話 綾奈の指輪に注目する元クラスメイト
みんなからの質問が始まってから少しして、俺と綾奈が翔太さんに注文していたケーキと飲み物が運ばれてきた。俺はチョコレートケーキとホットコーヒー。綾奈はモンブランとホットカプチーノを注文していた。
「綾奈ちゃん。その指輪綺麗だね」
チョコレートケーキ美味しいなと思いながら舌鼓を打っていると、綾奈の近くにいた陽キャな女子が、綾奈のしている指輪を見つけた。左手で口を隠しながらモンブランを食べていたら、見てくれと言ってるようなものだけど。
「えへへ~。でしょ?」
モンブランを飲み込んた綾奈は、みんなによく見せるために左手を伸ばした。
「もしかして、この指輪って」
「うん。クリスマスイブに真人から貰ったんだ~♡」
「やっぱり!」
「待って、左手の薬指にしてるってことは……」
「それに、さっき中筋君を「旦那様」って呼んでたし、もしかして……」
「うん。将来は真人のお嫁さんになります♡」
「っ! げほっ! ごほっ!!」
事実上の結婚宣言。綾奈は頬を赤くしながらもはっきりと口にした。
一方の俺は、いきなりそれを言うとは思わなくて、驚いてコーヒーが気管に入ってしまった。
「ま、真人!? 大丈夫?」
「だ、大丈夫。げほっ! ちょっとコーヒーが気管に入っただけだから……んん!」
綾奈は心底心配してくれていて、俺の背中を優しくさすってくれていた。
そんな綾奈の手が、ゆっくりと腰に下りていった。
「そんなに咳して……腰、大丈夫?」
「痛むけど、サポーターもしてるし、昨日や一昨日よりはマシだからあまり心配しなくても大丈夫だよ」
「うん…………うんっ」
俺は綾奈に、出来るだけ優しく微笑みかける。すると、綾奈から心配の色が薄くなり、綾奈も優しい笑顔を返してくれた。
「「…………」」
あれ? いつの間にかみんな静かになってる。どうしたんだろう?
みんなを見ると、一哉と千佳さん以外はじっと俺たちのやり取りを見ていた。
ぽかんとしたり、唖然としたり、ショックを受けてそうな男子がいたりと、様々な表情をしている。
一哉と千佳さんはもうすっかり慣れた様子で、平然とケーキを食べていた。
「み、宮原さん? なんでそんな平然としていられるの?」
「え? だって、これがこの二人の普通のやり取りだし」
一人の女子が動揺をそのままにして千佳さんに聞いた。
しかし、千佳さんは「だから何?」と言いたげな顔であっさりと返していた。
「だな。俺と宮原さんはこの光景を嫌ってほど見てるから、これくらいではもう驚かないよ」
一哉も当たり前のように言って、ケーキを頬張っていた。
「あー確かにそうだな。俺たちはクリスマスイブに駅前で二人と会ったんだけど、その時も二人の世界に入ってたもんな」
「だな。まさか真人と西蓮寺さんが付き合っていたなんて思いもよらなかったもんな」
「あの時の西蓮寺さん、相当気合い入った格好だったよな」
野球部トリオの
こいつらは俺と綾奈のやり取りを一度見ているから、そこまで驚いてはないみたいだ。
「しかし山根。お前、こんな甘いやり取り見てよくケーキ食えるな。胸焼けしないのか?」
どういう意味だよ。
「慣れだよ。慣れ」
一哉は茜とラブラブだから平気なんじゃないのかよ?
それを言うときっと特大のブーメランが返ってきそうだから心の中に留めておこう。
「てか中筋。さっき西蓮寺さんが言ってたけど、腰どうしたんだ?」
野球部トリオの隣に座っていた小太りな元クラスメイトが言った。
綾奈があれだけ心配してたら気にもなるよな。
俺は一哉と千佳さん以外のみんなに、俺が腰を痛めた経緯を説明した。
「え? 綾奈ちゃん、それ本当?」
「うん。あの時、真人は身体を張って私を守ってくれたんだよ」
「てか西蓮寺さん。中筋君の家に泊まってるんだ」
腰の怪我を説明するには、どうしてもそこも話さないといけなかったんだが、やはりみんなは驚いてるな。
「そうだよ。真人のご両親も、妹の美奈ちゃんもすごく優しくて……だから毎日とっても楽しいの」
綾奈の幸せそうな笑顔に、一哉以外の男子はもれなく綾奈に見惚れていた。久しぶりに見た学校一の美少女の笑顔だもんな。無理もないか。
それからも俺たちへの質問はまだまだ続く。
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