第276話 久々の再会

 麻里姉ぇと坂井先生に挨拶をして、俺と綾奈はドゥー・ボヌールの店内へと入った。

 正月ということもあり、店内はいつもより混んでいた。

 お客さんはほとんどが女性だ。

 このお店は、席からケーキを作っている様子を見ることが出来るのだが、女性客のほとんどは翔太さんを見ていた。

 その翔太さんは、俺と綾奈に気づくと、一度手を止め、俺たちの近くにやってきた。

「やぁ、綾奈ちゃん、真人君。いらっしゃい」

「こんにちはお義兄さん」

「こんにちは翔太さん」

「奥の席に千佳ちゃん達がいるよ」

 挨拶もそこそこに、俺たちはケーキを注文して千佳さん達がいる店の奥へと移動した。

 千佳さんや野球部トリオを含め、十人程が座ってお喋りをしていた。

 でも、当時から全然話をしなかった、本当にただの元クラスメイトって人も何人かいる。そんな人達がいるのに、どうして呼ばれたんだろう?

「綾奈、真人。こっちだよ」

 俺たちに気づいた千佳さんが手招きをした。

 元クラスメイトの何人かは、千佳さんが俺を名前で呼んでいることに驚いている。

「ちぃちゃん昨日ぶりだね。みんなはお久しぶり。それからあけましておめでとう」

「ひ、久しぶり」

 綾奈はみんなに笑顔で挨拶をした。

 元々明るく、クラスの人気者だった綾奈に対して、俺はただ一言だけしか言えなかった。

 今日集まった人達の半数くらいとはほとんど話したことがなかったので、久しぶりに陰キャムーブが強く出てしまった。

「西蓮寺さん久しぶり~からのあけおめ~」

「本当に二人一緒に来た」

「千佳ちゃんに言われてたけど、こうして実際に目にするとやっぱりびっくりするね」

 俺たちを見た女子たちが口々に感想を言っている。俺たちを待っている間、千佳さんに色々と聞いていたのだろう。

「てか、本当に中筋君なの?」

「それな! 痩せすぎて一瞬本人かわからなかったぞ」

「中学の時は全然だったけど、今の中筋君ってちょっとかっこいいかも」

「!?」

 綾奈を見たみんなは、今度は俺に向かって感想を口にした。

 一部、俺を睨んでいる男子もいるが、そいつらを除けば概ね高評価みたいだ。やっぱり痩せたのは良かった。

 みんなの評価に胸を撫で下ろしていると、突然綾奈が俺の腕に抱きついてきた。

 ほとんど不意打ちだったので、少し腰が痛んだ。

「だ、ダメだからね! 今さら真人の良さに気づいたって、私の旦那様は絶対あげないもん!」

「「…………」」

 綾奈の発言に、千佳さん以外のみんなが目を点にして固まった。

 再会して一分もしないうちに、俺を「旦那様」と呼ぶ綾奈を目の当たりにしたら当然の反応かもしれない。

「お前らどこにいても相変わらずだな」

 ふと、離れた所から聞きなれた声が聞こえてきた。

 声がした方を見ると、元クラスメイトに紛れて一哉の姿もあった。

「え? 山根君!?」

「ちょっ、なんでクラスが違っていたお前がいるんだよ!?」

 中三の時のクラスのグループチャットで呼び出しがあったのだから、俺たちがこうして集まるのは一哉は知らないはず。なのになんでこいつはここにいるんだ?

「宮原さんからメッセが来てな? ご意見番として参加してくれって」

「ご意見番って……そんなもん千佳さんだけで十分だろ」

 俺は千佳さんにジト目を向ける。

「あたしはあんたの昔まで知ってるわけじゃないからね。だったら真人の親友の山根も呼ぼうと思ったんだよ」

 千佳さんの言ってることはわかる。わかるけど、絶対ろくなこと言わないだろこいつは。

「お前絶対余計なこと喋るなよ」

「善処する」

 一哉といい茜といい健太郎といい、こいつらは「善処する」と言えばそれでいいと思ってるんじゃないのか?

 すごく不安に感じつつも、俺と綾奈はすぐ近くの二つ空いていた席に座った。

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