第269話 真人、西蓮寺家のキッチンへ
「ただいまー」
俺と綾奈は、西蓮寺家に戻ってきた。
あれから打ち解けた俺と銀四郎さんは、お互いの話で盛り上がってしまい、ついつい長居をしてしまった。
帰り際に二人からお年玉を貰ってしまった。断ったんだけど、二人が頑なに受け取ってほしいと言ってきたので、俺の方が折れ、結局貰ってしまった。
帰り道、ポチ袋の中身を確認すると、なんと一万円も入っていた。大事に使わないとな。
「二人ともおかえり」
現在午後一時を少し過ぎだ頃。
玄関に入ると、今朝ここに来た時と同様に、麻里姉ぇが出迎えてくれた。
朝と違うところは、麻里姉ぇが着物ではなく私服だった。
「お姉ちゃんただいま」
「た、ただいま。麻里姉ぇ」
やっぱり、この家に来て「ただいま」と言うのは若干照れくさくなる。
「ふふ。真人は早く「ただいま」って言うの、慣れないといけないわね」
「ど、努力します……」
やはり麻里姉ぇには簡単に見透かされた。
家に上がった俺と綾奈は、手洗いうがいを済ませ、俺はリビングに、そして綾奈は私服に着替えるために自分の部屋に移動した。
リビングに入ると、明奈さん、弘樹さん、そして翔太さんからも「おかえり」と言ってもらった。
改めて、この人達から家族として認めてもらえてることに嬉しくなった。
「真人君。腰は痛くないかしら?」
「腰のサポーターをしてるからマシになってます。ありがとうございます明奈さん」
「そう。良かったわぁ。お昼、真人君の分も用意してるけど、もう食べる?」
明奈さんに言われテーブルを見てみると、俺と綾奈、二人分の昼食が用意されていた。
だけど、お肉料理ばかりで野菜が少ないのが気になった。西蓮寺家の昼食は野菜を食べないのだろうか?
もし、キッチンと食材を使わせてもらえるのなら、野菜炒めを作れないかな?
腰も……うん、大丈夫そうだし。
「俺の分も用意していただいてありがとうございます明奈さん。綾奈を待って一緒に食べようと思ってます」
昼食のメニューにそんな違和感を感じながらお礼を言うと、明奈さんが口を開いた。
「あのね真人君。良子さんに聞いたのだけど……」
「はい」
「真人君もお料理をするのよね?」
「そうですね。簡単な物なら作れます」
そういや、母さんがたまに明奈さんとメッセージのやり取りをしてるって言ってたな。
なぜこのタイミングでそれを聞かれるのか。俺はなんとなくだが察した。
「もしね、腰が大丈夫そうなら、真人君の作った料理を食べてみたいなーってみんなで話してたのよ」
「え? 俺の料理を、ですか?」
「うん」
いやいや、俺の料理なんて素人に毛が生えたようなレベルのものだと思うよ。うちの家族に食べさせたこともあり、その時はいい評価を貰ったけど、俺の去年までの生活態度を加味しての及第点みたいな扱いたろうし。
ましてや明奈さんは相当料理上手だ。以前ここでご馳走になった鍋は絶品だった。
それに、翔太さんはケーキ専門とはいえプロだ。そんな人たちに俺のお粗末な料理を提供するのは抵抗がある。しかし……。
「僕もさっきその話を聞いて、真人君の料理に興味が湧いたんだ。だから腰の負担が大丈夫そうなら僕も食べてみたい」
俺の料理をプロが食べるとかめちゃくちゃハードルが高い気がする。
「真人。腰、大丈夫かしら?」
私服の麻里姉ぇが心配そうに近づいてきた。
「大丈夫だよ麻里姉ぇ。元々軽度だし、それに今はサポーターも巻いてるからね」
麻里姉ぇもなかなか心配性だなぁ。嬉しいけど。
「私もね、義弟が料理男子なら、姉として真人の作った物を食べてみたいわ。腰が悪いならまた今度でも大丈夫だから……無理なら言ってちょうだい」
「悪い真人君。俺もみんなと同意見だ。だが、真人君の身体が一番だから、麻里奈の言う通り、腰がダメそうなら断ってくれて構わないよ」
この人達なら断っても嫌な顔はしないだろうが、なんとなく断りたくないと思ってしまった。
「……えっと、お野菜を使わせてもらいますけど大丈夫ですか?」
「もちろんよ! 遠慮なく使ってちょうだい!」
明奈さんの目がキラキラしている。そんなに期待されているのか。
「わかりました。ではキッチンをお借りします」
俺は冷蔵庫から野菜を取り出し、いつもより気合を入れて野菜炒めを作った。
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