第266話 ドラッグストアでのお約束?
「やっぱりここもけっこう混んでるな」
神社をあとにし、ドラッグストアに入店した俺と綾奈。
元日ということもあってか、店内にはいつも以上のお客さんがいた。
昨日行ったスーパーもこんな感じだったな。
食品や日用品なんかも多く取り揃えているから便利なんだよな。
来店しているお客を見ると、俺たちと同じ初詣帰りなのか、着物を着た女性もそれなりにいる。
そしてやはりと言うべきか、俺たちの近くを通る人たちは、大体綾奈を一目見て、「すげー可愛い」等の声を漏らしている。
「やっぱり誰の目から見ても綾奈は可愛いんだよな」
「あぅ……、う、嬉しいけど、やっぱり真人にだけ思われてたらいいよ」
「俺はいつも綾奈は可愛いって思ってるよ」
「あ、ありがとう真人。嬉しい……えへへ」
「っ!」
照れてはにかむ綾奈。可愛すぎてヤバいんですけど。
「ほ、ほら綾奈。早いとこ用事を済ませて幸ばあちゃんの家に行こう」
俺は照れを隠すために、綾奈に移動を促した。
「真人、かわいい」
しかし、俺が照れているのを見抜いた綾奈は、にっこりと笑い言った。
最近は照れるとすぐにバレるようになったな。それだけ付き合いが長くなってきたと喜ぶべきだよな。
俺は綾奈の手を引いて、店内の奥へと入っていった。
「そういえば、お昼どうしようか?」
スマホで時刻を確認すると、もうすぐ正午になる。
父さんたちは父さんの実家に行くって言ってたから、帰ってもお昼が用意されているとは思えない。
冷蔵庫に何かあったかなぁ? なんて考えていると、綾奈が口を開いた。
「お母さんが用意してくれているよ。真人も分もあるから心配しなくても大丈夫だよ」
「え? マジで?」
「うん」
明奈さん。そんなこと全然言ってなかったのに。
「だから、帰ったらお昼は一緒に食べよ?」
「……そうだな。綾奈の家に着いたら明奈さんにお礼を言わないとな」
心の中で明奈さんに感謝しつつ、目的のコーナーへ歩いた。
「お。あったあった」
湿布やサポーターが置いてあるコーナーに来た俺は、自分のサイズにあった腰サポーターを手に取った。
こういうの買ったことがないから分からなかったけど、へぇ、マジックテープになってるのか。
これなら買ってすぐにつけることが出来るな。店の外に出たら早速付けよう。
そういや、洗顔剤も残り少なくなってたよな。一緒に買っておこう。
いつも使っている洗顔剤を手に取り、それから幸ばあちゃんの家に持って行こうと、お菓子も数種類カゴに入れた。
ところで、綾奈はどこに行ったんだろう?
腰サポーターを選んでいる時は近くにいたのに、いつの間にか離れ離れになっていた。
とりあえず店内を回って綾奈を探そうと思って移動を開始した。ピンクの晴れ着を着てるからいたらすぐわかるだろう。
お客さんが多いから移動がなかなか大変だ。腰も痛いし。
「あ、いた」
ピンクの可愛らしい着物を着ているので、すぐに綾奈を見つけることが出来た。
綾奈はしゃがみこんで、ある一点をじっと見ている。
なんだ? そんなに興味を引く物でもあったのか?
俺はゆっくりと綾奈に近づいていく。どうやら綾奈は顔を赤くしているようだ。
「綾奈。なに見て……え!?」
綾奈のそばまで行き、綾奈に声をかけてから俺は固まった。
綾奈が見ていた商品を俺も見ると、小さい長方形の箱に、でかでかと「0.01mm」と書かれていた。
つまりそれは、男女がそういうことをする時に用いる物だった。
「ま、ましゃとぉ……」
俺に振り向いた綾奈の顔は、熟れたリンゴのように真っ赤になっており、少しだけ涙目になっていた。
ぷるぷると身体が震え、声も同様に震えていた。
「あ、綾奈!? 何見てるんだよ!?」
「だ、だってぇ……」
なおも震えながら抗議の声を上げる綾奈。可愛すぎる。
「す、スキンケア用品を見たあとに店内を歩いてて、そしたらこれを見つけて……わ、私は悪くないもん!」
まるで駄々っ子のような言い訳をしながら頬を膨らませる綾奈。
駄々っ子モード(今名付けた)久しぶりに見たな。
「わ、わかったから。ほら、早くレジで会計済ませよ?」
「ま、ましゃと。……あ、あのね!」
俺は恥ずかしさから、すぐにここから離れたかったが、綾奈は立ち上がろうとせず、震える声で俺を呼んだ。
なんだ? もしかして、答えにくい質問でもするつもりか?
出来ればそれ関係の質問は勘弁してくれと願いながら、俺は綾奈の言葉を待った。
「……こ」
「こ?」
「腰に力が入らないから、立たせてぇ……」
「………………ぷっ」
内心でズッコケながら、おかしくてつい吹き出してしまった。
俺のリアクションにぷくっと頬を膨らませた綾奈の手を引き綾奈を立たせ、お客さんをかき分けて進み、レジで会計を済ませ、ドラッグストアをあとにした。
アレは俺たちにはまだ早いよ。
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