第263話 事態終息
「横水君」
「は、はい」
美奈の話を黙って聞いていた彼は、さっきまでの勢いはどこにもなく、借りてきた猫のように大人しくなっている。
「美奈の話が嘘かどうかは、君の判断に任せるよ。それから、これは俺からのお願いなんだけど、あまり美奈や茉子とはいがみ合わないでほしい。二人とはクラスメイトなんだろ? 無理して仲良くしてくれと言うつもりはないけど、普通のクラスメイトとして、これからも二人とは接してほしいんだ」
「お兄ちゃん……」
あと三ヶ月したら進級して別々のクラスになるかもしれない。
だけどこんな、言い争ったまま解散してしまうと、三学期になってもしこりが残ってしまう。
そうしたら、お互いのことを悪い意味で意識してしまい、三学期を楽しめないと思った。
万が一、今日のこの事がこの先の将来にまで尾を引いてしまったらと思うと、どうしても口を出さずにはいられなかった。
「わかり、ました……。先輩の言ったこと、ちゃんと守ります。それから、ナメたこと言ってしまってすみませんでした」
彼が俺への態度を百八十度変えたことに、そして綾奈たちにきちんと謝罪したことに驚いた。
この後輩は、思ったより悪い奴ではないのかもしれないな。
「その、先輩の妹や吉岡が言ったことが信じられなくて色々言ってしまいました。でも、実際見た先輩は本当に見違えて、マジで綾奈先輩のために頑張ったんだなって思えます。その怪我をした時も、俺だったらきっと判断出来なかったと思うから、すげーって思います」
それから横水君は綾奈たち三人を見て、深々と頭を下げた。
「中筋、吉岡、そして綾奈先輩。三人の大切な人を散々ディスってすみませんでした」
横水君の本気の謝罪に、三人とも……特にクラスメイトの美奈と茉子はマジで驚いていた。
「あ、あんたがちゃんと謝るなんて……」
「私もちょっと驚いちゃった。ごめんね横水君」
「真人がもういいって言うなら私ももう気にしないようにする。横水君、これからはあまり人を悪く言わないようにね」
「はい。肝に銘じます」
よかった。どうやらいい感じに収まってくれた。
「あ、横水。もうひとついい?」
美奈は横水君にまだ何か言いたいことがあるようだ。
「あんたと一緒に、お義姉ちゃんで卑猥な妄想してた二人にも、お兄ちゃんとお義姉ちゃんの関係をちゃんと言っておいて。その上で、二度とお義姉ちゃんで妄想しないようにって」
思春期真っ只中の男子に、綾奈のような美少女で妄想するなと言う方が無理な気がしないでもないが、これを言うと美奈は俺に噛み付いてきそうだし、俺自身もあまりいい気がしないので何も言わないでおこう。
「わかった。あいつらにも冬休みが終わったらちゃんと言っておくよ」
それから横水君は俺たちにお辞儀をしてその場を去っていった。
本気の喧嘩になりかけたみたいだけど、なんとかいい方向に事態を終息させられたみたいで、ほっと胸をなでおろした。
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