第259話 立ち込める暗雲
「あの! 弟をここまで連れてきてくれたお礼がしたいので、こ、この後二人でどこかに行きませんか!?」
「気にしなくて大丈夫だよ」
横水君のお誘いを、私はすぐに断った。大事な旦那様がいるのと、そこまでのことをしたとは思ってないから。
「どうしても、ダメですか……?」
そんな悲しそうな顔で言われると少し心が痛むけど、やっぱりダメなものはダメ。
「うん。ごめんね」
「わかりました……。急に誘ってすみません」
「気にしてないよ」
「それで、あの……綾奈先輩の耳に入れておきたいことがあるんですが……」
「私の耳に入れておきたいこと?」
私は横水君の言葉を繰り返し、首を傾げた。
「はい。多分綾奈先輩が不快になるようなことだと思うので、先輩に知らせておこうかと」
私が不快に思うこと? なら別に私が知らなければ問題ないと思うんだけど……。
それを伝えようとする前に、横水君は口を開いた。
「実は、俺のクラスに、将来綾奈先輩の義理の妹になると自称する女子がいるんですよ」
「……え?」
それって美奈ちゃんのこと、だよね? それとも美奈ちゃんの他に誰かがそう名乗っているのかな?
……マコちゃん? でも、マコちゃんは真人を「お兄ちゃん」って呼んでるけど、私のことは「西蓮寺先輩」って呼んでるから、マコちゃんの可能性は薄いよね。
「その女子が義理の妹ってことは、綾奈先輩はそいつの兄貴と結婚するって意味じゃないですか?」
「そう、だね」
「でもそいつの兄貴が問題で、とてもじゃないけど綾奈先輩とはどう考えても釣り合わないんですよ」
「そうなの? その子のお兄さんは具体的にはどんな人なの?」
真人じゃ、ないよね?
「それがですね、そいつの兄貴はかなりのデブでオタクなんですよ」
「そう、なんだ。……その人のお兄さんについて詳しいんだね」
中学三年までの真人も太っていたから、彼の頭の中の記憶がその時から更新されていなかったら、横水君の言っているのは真人ってことになる。
……何も知らないのに、私の大好きな旦那様をバカにしてるのかな?
「そいつとは一年の時も同じクラスで、去年……もう年が変わったから一昨年になるのか。とにかくそれくらい前は、そいつは自分の友達に兄貴のことをディスっていて、俺もそれを聞いたから知ってるんです」
今はすごく仲のいい兄妹の真人と美奈ちゃんだけど、確か前に美奈ちゃんは真人を毛嫌いしていたって真人から聞いたことがある。確か、太っていて自堕落でいつもライトノベル読んだりゲームしてる真人が見てられなかったって。
「横水君は、その女の子に何か言ったの?」
「はい。言いました。お───」
「ちょっと待ったーーー!!」
「「!?」」
私の後ろから、聞き覚えのある声と、こちらに向かって走ってくる足音が二つ聞こえてきたので、後ろを振り向くと、美奈ちゃんとマコちゃんがこっちにダッシュで向かってきていた。
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