第252話 何をお願いした?
いよいよ神社の境内までやってきた。
俺の前に並んでいた一哉たちは既にお参りを済ませ、最初に六人で集まった場所で待機している。
俺と綾奈は揃ってお金を賽銭箱に投げ入れた。うん。綺麗に入ってくれた。
綾奈が投げたお金は真っ直ぐ飛ばず、賽銭箱に入らないのではと思われたが、縁でバウンドし、なんとか入った。やっぱり綾奈は運動やスポーツの類は苦手みたいだ。
俺たちは一緒に鈴を鳴らし、お参りの作法に則り、神様にお願いをする。
今年も綾奈と仲良くいられますように。そして、綾奈が無病息災でありますように。
月並みなお願いかもしれないが、やはり俺には一にも二にもこのお願いしかない。
神様にしっかりとお願いして、ゆっくり目を開け、隣の綾奈を見ると、綾奈はまだお願いをしている最中だった。
一体何をお願いしているのか、そのお願いが俺のことだったら嬉しいな、なんて思いながら綾奈の横顔に見惚れていた。
そこから十秒ほどで綾奈は目を開けた。
「お願いは終わった?」
「うん。神様にしっかりと私のお願いを伝えたよ」
「そっか。じゃあみんなのところに移動しようか」
「うん」
俺達は手を繋いで一哉たちの元へ移動を開始した。
「でも、綾奈はすごく真剣にお願いしてたね」
「うん。だって、お願いしたいことがいっぱいあったし、それに……去年のお礼も伝えたかったから」
だから長くてあんなに真剣だったのか。
「去年のお礼?」
「うん。真人と夏休みに再会できて、それからお付き合いが出来ました。ありがとうございましたって」
「そう、なんだ」
真っ直ぐ俺の目を見つめて微笑む綾奈に、俺は照れて目を逸らしてしまう。
「それから、お願いもほぼ全て真人のことなんだよ」
「そうなの?」
「うん。真人ともっと仲良く、ラブラブになれますようにとか、去年、真人は風邪を引いちゃったから、今年は健康に過ごせますようにとか、真人が私のお料理をいっぱい食べて、美味しいって言ってくれますようにとか、真人の腰が早く良くなりますようにとか、真人がこれ以上モテませんようにとか、とにかくいっぱいお願いしたよ」
今言ってくれたのは、本当に一部なんだろうな。随分たくさんお願いしたみたいで、神様は聞き届けてくれるだろうか? まぁ、大体は神様にお願いしなくても大丈夫な内容だけどね。
「俺も似たような感じかな。ありがとう綾奈」
「えへへー♡」
俺が綾奈の頭に手を置くと、綾奈はふにゃっとした笑みを見せてくれた。
「というか、最後のは別にお願いしなくてもいいだろ?」
俺がモテるなんて、北内さんで最後だろうし。
「ううん。それはどうしてもお願いしたかったから」
「別にお願いしなくても、俺はモテないから大丈夫だって」
「……真人、やっぱり鈍感」
「え?」
何かをボソッと呟いたみたいだけど、よく聞こえなかった。
「真人は絶対、ぜーったい誰にもあげないって言ったの!」
そう言って、綾奈は俺の腕に抱きついてきた。その衝撃で、少し腰が痛んだけど、なんとか顔に出さずにすんだ。
「俺はその指輪に誓って、綾奈からは絶対に離れないよ」
「真人……。もぉ、本当に大好き。愛してる」
「俺も、愛してるよ」
俺達は人がいっぱいいる神社で愛を伝えあった。きっと神様にも見えているだろう。
「お兄ちゃんたち、よくこんな大勢の人の前で堂々とイチャつけるね」
「うおぉ! 痛っ…… 美奈、それに茉子も!?」
「ふ、二人ともいつの間にいたの!?」
いつの間にかお参りを終えた美奈と茉子に、背後から呆れた様子で話しかけられ、俺と綾奈は揃って飛び跳ねた。
「みぃちゃんから聞いたけど、大丈夫? 真人お兄ちゃん」
茉子は美奈の横で、心配そうに俺を見てくる。
「だ、大丈夫。ありがとう茉子」
さっきの「お兄ちゃん」は、きっとここら辺にいる大勢の人に聞かれたと思うけど、そのほとんどが赤の他人だから、問題ないと思った茉子が俺をお兄ちゃん呼びにしたんだろうな。
「まったくもぉ……。ほら、私も支えるから、早く茜ちゃんたちの所へ行くよ」
俺は綾奈と美奈に腰を支えらながら、一哉達の所に行くのだった。
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